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F1で培った技術が生きている? ホンダ新型燃料電池車の空力デザイン

2016年03月15日

無題




3月10日、Honda青山ビル1階ウエルカムプラザ青山で新型燃料電池車「CRARITY FUEL CELL(クラリティ・フューエル・セル)の発表会が行われました。





従来はセンターコンソールに収めていた燃料電池スタックを高性能化しつつ小型化してフロントフード下に移動。モーターや昇圧コンバーターの設計を工夫したことなどと合わせて、パワートレーンをV6エンジン並みのコンパクトなサイズに集約──といったように、技術面やパッケージ面で見どころが多いクルマです。

プレゼンテーションで思わず前のめりになって耳をそばだてたのは、空力性能の話題。開発責任者の清水潔氏によると

「空力性能に徹底的にこだわりました。基本的なボディの形状による空力性能の良さに加え、タイヤやホイールハウスから発生する空気の乱れを抑えるエアカーテン、タイヤカバーを装備しています」

水素一充填あたりの航続距離を伸ばすため、ドラッグ(空気抵抗)は徹底的に減らしたい。そのための策のひとつが「フロントエアカーテン」と呼ぶ処理。フロントバンパーの下から取り込んだ空気をインナーフェンダーに流し、フロントタイヤ外側に空気のカーテンを作ることで、ホイールハウスから発生する空気の乱れを抑える効果を発揮します。


F1の空力デバイスにあてはめれば、さしずめフロントウイング翼端板を含む外側のエリアと同じ。フロントタイヤが引き起こす乱流が広範囲におよぶと、それだけドラッグは増えるし、流れる方向によってはリヤの空力性能に悪影響をおよぼす。その悪影響を最小限に食い止めるために機能するのが、翼端板を含む外側のエリアとなります。



クラリティFUEL CELLは「リヤエアカーテンダクト」も備えていますが、リヤドア下部にカーテンダクトを備えるのは、4ドアセダンとしては世界初だそう。機能はフロントのエアカーテンと同じで、タイヤ基点の空気の乱れを制御するのが狙い。「空気の乱れを抑える」機能に着目してF1にあてはめれば、リヤタイヤ前に施されているフロアのスリット処理に該当。




クラリティの開発責任者は「基本的なボディの形状による空力性能の良さ」に言及しています。独立したトランクがあるセダンボディの場合、ルーフからトランクに向かうボディ上面の空気の流れと、ボディ側面の空気の流れでは速さや向きが異なるため、合流地点で車体後方に大きな縦渦が発生。これが大きな空気抵抗になって燃費の悪化につながってしまう。


F1では、これと同じような現象がリヤウイングで発生しています。雨上がりなど、湿気の多い条件でリヤウイングの後方に白い渦が見える場合がありますが、この渦が、そう。圧力の高い領域(ウイング上面)から低い領域(ウイング下面)に空気が急激に流れ込むことによって縦渦が発生し、ドラッグを生み出す。翼端板に刻まれたスリットは、渦の発生を減らすための策です。


クラリティの広報資料は、「ラジエーターグリル内部にダクト構造を設け、効率よくラジエーターを冷やすことで可能な限り開口面積を小さくし、冷却性能と空力性能を両立しています」と説明。まるっきり、サイドポンツーン内部の設計と共通した考え方です。



2000年から2008年までの第3期F1参戦期間中、ホンダは共同開発から完全開発に軸足を移しながら空力開発を行っていました。活動休止後、一部のエンジニアは量産車の空力開発に携わることに。「そのうち、ホンダの空力は劇的に変わりますよ」と、あるエンジニアが語ってくれたことがありました。

いかにもF1直系なクラリティの空力思想や処理を見ると、そのときの言葉を思い出してしまいます。効率を極端に重視した、このクルマの場合は、空力的な思想が先鋭された形で表れているのでしょう。クラリティほど目立ちこそしないが、その他のモデル(とくに高速域のスタビリティが重視される欧州販売モデル)にも、F1の空力ノウハウが受け継がれているのは間違いなさそうです。


Text & Photos:世良耕太(Kota Sera)
Photos:Honda, autosport.com, XPB Images


プロフィール

世良耕太

世良耕太

技術ウォッチャーの世良耕太氏が、レースの取材や日常で気になったことを綴ります。F1、WEC、フォーミュラEなどなど独自の視点で見てみると……。本家ブログ「世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々」と、あわせてお楽しみください。

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