暗闇に包まれたサルト・サーキットに轟くV8サウンド。ヘッドライトを煌々と輝かせLMP2に食らいつくそのGTマシンはアストンマーティンか? シボレー・コルベットか? いや違う。シボレー・カマロZL1、NASCARだ!
■動いていなくても速かった?
「初めてこのクルマをデイトナでテストした時、5周して人生最大の失敗をしたかもしれないと思ったんだ」と、ニコニコ嬉しそうに語るのは元F1世界王者のジェンソン・バトン。
「とにかくクルマが重たく感じたし、ブレーキだって思いっきり踏んづけ続けないと止まらない。でも、クルマに慣れてきたら最高に楽しく感じられた。とにかくエンジンがパワフルでリヤが滑りまくる。それをコントロールしながら走るのが楽しいんだ。レースでタイヤを滑らせて走るなんて、最近ではあんまりないけれど、このクルマと、グッドイヤータイヤはそうやって走らせてもいいようにデザインされているからね。ほんと、運転していて最高だよ!」
ル・マン24時間の賞典外特別枠『ガレージ56』は、異質なモノを飲みこむことで知られているが、さすがにNASCAR(カップカー)はどうなのよ? と誰もが思ったに違いない。
NASCARにだってロードコースのレースはあるけれど、ヘッドライトはシールだし、ハネは控えめだし、何よりも24時間連続で走れるんですか? っていう話です。
でも、開拓者魂溢れるアメリカンたちはそんな困難なチャレンジに挑むのが大好き。NASCARのトップチーム、ヘンドリック・モータースポーツの面々は、この一見ふざけたようなプロジェクトに真剣に取り組んだ。
新世代マシンのNext-Genに移行したとはいえ、最新のGT3やGTEに比べればローテク気味なNASCAR。でもね、NASCARトップチームの技術力って実は目茶苦茶高いんですよ。ローテクなものを最先端のレース技術で走らせるのがNASCAR流。だから、ル・マンを走りますなんてことになったら、彼らは最高に燃えるわけです。そして実際、いいクルマを作りあげた。アソビだと思ったら、これが抜群に速いGTカーに仕上っていたのです。
LMGTEアマクラスのライバルたち? がまずビビッたのは予選での速さ。そりゃそうでしょう、最速だったAFコルセのフェラーリ488 GTEエボより約4秒も速かったんだから。あんなローテク(何度も失礼)マシンにぶっちぎられたら、たとえ『特別枠』だったとしてもGTEの皆さんは面白くないでしょうね。
さらにさらに、NASCARカマロは動いていなくても速かった。というのは、全チーム参加の『ピットストップチャレンジ』でGTカー最速、総合でも5番手のタイムだったから。しかも車載のエアジャッキじゃなくて、左右交互に突っ込む手動ジャッキで4本のグッドイヤータイヤを10秒364で交換したのだから、これ実質的に総合優勝でしょう。ヘンドリックの屈強なピットクルーの皆さん、あなたたち最高です!
忘れてました。ドライバーたちも最高ですよ。F1元世界王者のバトン様、NASCARチャンピオンのジミー・ジョンソン様、そしてル・マン・ウイナーのマイク・ロッケンフェラー様。豪華すぎでしょ。こればかりはLMGTEアマの皆さんにゴメンナサイですよね。クルマの開発は、元アウディ・ワークスのロッケンフェラーが主に担当したようですが、やっぱりル・マンをよく知っているから任せて安心ですよね。