Eri Ito

 こうしたコンディションのなか、完走したライダーのひとりが、ダニ・ペドロサ(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)である。KTMのテストライダーであるペドロサは、ヘレスにワイルドカードとして参戦していた。ウエットでの予選に苦戦して16番手に沈むも、レギュラーライダーたちが次々と転倒していくなか、堅実に走り切って4番手でゴールした。

 ちなみに、転倒したライダーのなかには、ペドロサと同じくテストライダーという使命を負って参戦していたロレンツォ・サバドーリ(アプリリア・レーシング)とステファン・ブラドル(HRCテスト・チーム)が含まれる。

「いいスタートを切って、最初のふたつのコーナーはだいたいよかった。僕は13番手くらいにいたと思うけど、すでにファビオ(・クアルタラロ)の後ろを走っていた。最初の2周で彼をオーバーテイクしたかったんだけど、最初のクラッシュを見て、次の周にもまたクラッシュを見ることになって、またその次の周にもクラッシュがあって……。それを見て『あまりプッシュしないようにしよう』と思ったんだ。タイヤはまだ温まっていなかったし、路面は難しい状況だったし」

 こうしてペドロサは、レース中のほとんど、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGPチーム)の後ろで走っていた。だが、前のライダーが次々にクラッシュするものだから、ペドロサは、もはや自分のポジションがわからなくなっていた。クアルタラロをメインストレートでパスしようと並びかけていたので、ピットボードを確認できていなかったのだ。

 最終ラップを迎えたとき、ペドロサは自分が6番手か7番手を走っていると思っていたという。ピットに戻ってスタッフに言われ、ようやく3位を逃したのだと気が付いた。

 ペドロサは「残念だけどね。0.06秒差で表彰台を逃したんだから」と言って笑った。だが、この囲み取材のあとに結果が変わる。3番手でゴールしたクアルタラロに対し、FIMスチュワードがペナルティを科したからだ。

 これは、クアルタラロのタイヤの空気圧がミシュラン推奨のパラメーターよりも低かったため、結果に8秒が加算されたというもので、クアルタラロのほかにアレックス・リンス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGPチーム)、ジャック・ミラー(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)、ラウル・フェルナンデス(トラックハウス・レーシング)、ディ・ジャンアントニオもまた、同様のペナルティを受けている。

 違反が多発した理由は定かではない。ただ、タイヤの内圧というのはスタートするグリッドポジションからレースの展開を予想して規定の範囲に収まるようにチームが設定する。あくまでも推察になるが、多くのライダーが転倒を喫したこのレースで、想定されたよりも集団での走行にならなかったことが要因のひとつだったのかもしれない。

 すでにトップ3ライダーのセレブレーションは終了していたため、ペドロサのそれは、すべての囲み取材が終わった夕方、パドックで特別に行われた。ペドロサのためのセレブレーションエリアは、チームのトレーラー付近に設けられていた。ブロンズ・メダルを受け取ったペドロサは、西日を受けて目を細めながら満面の笑みを浮かべる。それは、難コンディションで仕事を果たしたペドロサが受け取った、大きな報酬だった。

パドックに設置されたペドロサのためのセレブレーションエリア

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