マルケスは自分を棚に上げて他のライダーを批判する誘惑に抵抗した。「今日は普通だったよ。何度かアグレッシブな接触はあったけど、それがレースというものだからね。制限を設けたら(ルールを厳しくしたら)、レースはまるでF1のようになってしまうよ。それこそMotoGPが大きくなっている理由さ」と彼は言った。
四輪レースの関係者には、かつてのF1スターであるスターリング・モスのように、F1はあまりに安全になってしまい、かつてのように人々の心を掴めていないと考えている人もいる。
1950年代と60年代、フェラーリやジャガー、マセラティ、アストンマーチン、ロータスといった魅力的なマシンを駆り、進んで首の怪我のリスクを負っていたモスは「モーターレースは危険であるべきだ! 若い男なら、自分がどれだけ勇敢か見せつけたいものだろう」と語る。
MotoGPはモンツァやホッケンハイム、ザルツブルクリンクといった素晴らしく、とても危険なレーストラックを使用しなくなっている。フィリップアイランドは今となってはMotoGPに残された最後の宝石のひとつだ。レーストラックは、コンピュータ上で苦労して構成されたものよりも、ナプキンの裏にスケッチされたものの方が良質のレースを生み出すということは、歴史が何度も証明している。
複数のライダーによる、偉大なGPレースバトルの多くがフィリップアイランドで繰り広げられた。1989年、トップから4番手までは1.5秒差に収まっており、2000年にはトップから4番手まではコンマ4秒の差だった。2015年には差が1秒、そして今年の優勝者マルケスと4位のザルコの差は1.8秒だ。

マルケスはホンダRC213Vで約321km/hのスピードを出しているが、彼が不安がっているのを聞いたのは2度しかない。最初は数年前のシルバーストンでのことだ。高速でバンピーなコーナーがある上に、強風が吹いていたため、彼はほんの少し恐れていた。
2度目は先週末のフィリップアイランドだ。彼はこのサーキットがなぜ特別なのかを私たちに「走っていると息がつまりそうになるからだよ!」と話して笑い、喉を押さえた。