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投稿日: 2017.11.08 14:55
更新日: 2018.06.26 16:12

ロッシが生み出した『足出し走法』の意味とは?/ノブ青木の知って得するMotoGP


MotoGP | ロッシが生み出した『足出し走法』の意味とは?/ノブ青木の知って得するMotoGP

 さて、お次は空力カウルについて。シーズン終盤になって各チームとも新型の空力カウルを登場させた。その効果のほどは第1回でイヤというほど詳しく解説したが、新型空力カウルもめざすところはまったく同じ、フロントの無用なリフトアップを避け、接地感を高めることだ。

ドゥカティの空力カウル
ドゥカティの空力カウル

 風洞実験をすれば空力カウルと標準カウルで間違いなく数値上の違いは出るはずだ。でも、こちらも足出し走法と同様、すべてのライダーが空力カウルを使っているワケじゃない。同じマシンに乗るチームメイトでも、例えばドゥカティのホルヘ・ロレンソは新型空力カウルを多用している一方、ドビはそうでもない。

ホンダの空力カウル
ホンダの空力カウル

 ホンダのマルケスは新型空力カウル派で、ダニ・ペドロサはアンチかと思うほど空力カウルを使わない。さらにロレンソやマルケスも、コースやセッションによって新型空力カウルとスタンダードを使い分けていたりする。バラバラなのだ。

 空力カウルは、足出し走法以上にライダーおのおのの感覚頼りなのだ。四輪の場合はシミュレーターでほぼ正確に空力パーツのパフォーマンスを読むことができるが、二輪の場合はそう簡単じゃない。バイクはあまりにも繊細にして微妙な乗り物なので、ライダーは数値化できないほどわずかな差異を感じ取り、それがモロに走りに影響するのだ。

スズキの空力カウル
スズキの空力カウル
アプリリアの空力カウル
アプリリアの空力カウル

 さらに言えば、トップライダーたちは物理の限界さえ超えてしまう。ドビとマルケスが激しいトップ争いを展開し、すっかりタイヤが摩耗した最終ラップでベストタイムを叩き出すなんて、完全に理屈を超えている。

 いずれ、ライダーの感覚とマシンの挙動が完全にリンクして、より高い精度でセットアップできる日が来るかもしれない。でも、そのためには信じられないほど膨大なビッグデータが必要になるだろう。そしてその時のトップライダーは、やはり数値化できない部分まで感じ取り、物理の限界を超えた走りをしているに違いない。

ヤマハの空力カウル
ヤマハの空力カウル
KTMの空力カウル
KTMの空力カウル

 あるライディングテクニックや、あるテクノロジーがすべてのライダーに適合するわけじゃない。必ずバラつきがあって、だから先の読めないドラマが生まれる。ここがバイクレースの素晴らしいところだとワタシは思う。

 間もなく始まる最終戦、マルケスとチャンピオン争いをしているのがドビだなんて、誰が予想しただろう。冒頭に「ほぼマルケスで決まり」なんて書いたが、いやいや、やっぱり何が起こるか分からない。定量化も数値化もできない運や流れは、間違いなくドビに向いているのだ。

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■青木宣篤

青木宣篤
青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。


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