更新日: 2018.06.26 16:11
MotoGPマシンは数100グラムがバランスを左右する!?/ノブ青木の知って得するMotoGP
ちょっと説明が必要になるが、GPマシンが2ストローク500ccエンジンを使っていた時代には、補機類の位置は今ほど重視されていなかった。
というのも、2ストはマシンそのものが最低重量130キロと驚異的な軽さだった(現在のMotoGPマシンの最低重量は157キロ)から、最大の重量物である人間の体さばきでどうにかなっていたのだ。エンジン搭載位置については昔から気を遣っていたが、補機類まではさほど気にしていなかった。
2002年からGPマシンが4スト化されると重いエンジンの搭載位置による重心設定があらためてクローズアップされたけど、補機類にまで思いをめぐらすことはなかった。
何しろ4ストエンジンによって全体的にものすごく重くなったし、エンジンパワーも凄まじくなったので、細かい補機類の搭載位置は今ほどシビアに突き詰められていなかったのだ。
ところが2009年、MotoGPタイヤがブリヂストンのワンメイクになったことで、事態は一変する。タイヤがイコールコンディションになった分、あらゆる物事の突き詰め度合いがものすごくシビアになっていったのだ。
重心に関して言えば、それまではマスはだいたいセンターに集めておく、という『マス集中』がセオリーだったが、その考え方だけでは足りなくなってきた。
当時のブリヂストンタイヤは、前輪のチャタ(微振動)が問題視されていた。一方でブリヂストンは『アルティメット アイ』というものすごく高度なタイヤ解析技術を持っていて、動いている状態のタイヤの挙動をバッチリと可視化、計測している。
この『アルティメット アイ』によって、『前輪に何キロの荷重をかければチャタは解消する』というように具体的な数値が提案されていた。
ワタシはその頃すでにスズキのMotoGPマシン開発ライダーになっていたが、「スズキさん、何キロ荷重が足りませんよ」という具合に指摘されるわけだ。これを解消するために、マスをセンターに集めるだけではなく「少しフロントに持っていこう」というように重心バランスをいじり始め、実際にそれでうまくいった。
そして2016年、タイヤがミシュランのワンメイクになると、MotoGPライダーの多くは「前輪が頼りない」と口をそろえるようになった。タイヤのグリップ不足を感じた場合、一般的には荷重をかける方向にセットアップする。
「前輪が頼りない=フロントに荷重をかける=ブリヂストン時代よりさらにフロントにマスを持っていけばいい」となりそうなものだが、面白いことに実際は逆だった。
フロントにマスがあると、ミシュランの前輪の適正荷重を超えてしまうようで、うまくいかなかったのだ。そこで、マスを後ろに持っていくことで対応。結果として、後輪のグリップ力というミシュランの強みを高めることにもなった。