Yoshiyuki Matsuda

 当然プロのレーシングライダーとして鍛えているはずの中上ですら何とかしがみつかねばならないというから、MotoGPマシンは相当な暴れ馬なのだろう。

 もちろん、MotoGPマシンは電子制御がライダーの走りをサポートする。しかし、それは同時にマシンの本来の力をセーブしているということでもある。制御をうまく使いながらもそれに頼りすぎずにMotoGPマシンを走らせるには、そのための技が必要だ。

電子制御がかかっているからこそ走らせる難しさがあるという
電子制御がかかっているからこそ走らせる難しさがあるという

「電子制御はライダーを助けてくれます。もっともわかりやすいのはウィリー制御ですね。スロットルを開けるとフロントが浮き上がっていきますが、そこで過度のウィリーを防ぐため、制御してくれます」

「でも、制御がかかっているということはパワーを落としている、ということです。マシンが発揮できる本当のエンジンパワーを落としてしまう。それでは速く走れません。いちばん効率がいいのは制御に頼らず、自分のスロットル操作でコントロールする走りです」

「制御そのものはライダーを守ってくれるものとして絶対に必要なのですが、利かせすぎてもタイムは伸びない。ギリギリのところまで自分でコントロールする走りが求められます。そのために、MotoGPライダーたちが他のクラスにはない、さまざまなテクニックを駆使していることも知りました」

「例えば、リヤブレーキ。MotoGPクラスでは加速時にも使っています。スピードを落としてしまうことになってしまうのでMoto2時代に加速で(リヤブレーキを)使ったことはありませんが、MotoGPクラスでは制御を利かせずにマシンをコントロールするアイテムのひとつとして使います」

「スロットルを開けて加速しながら、リヤブレーキペダルを踏んでウィリーを抑える。バレンシアテストのデータでは、チームメイトのカル・クラッチロー選手が1周する間に90%以上リアブレーキを操作しているのに対し、自分は20%ぐらいしか踏んでいませんでした」

 中上が身につけるべきことは他にもたくさんある。シフトダウン時においても機能するシームレスミッションはクラッチレバーを使うことなく滑らかな減速をもたらしてくれるが、MotoGPクラスでしか使用が許されていないカーボン製のフロントブレーキディスクは、独特のクセを発揮したうえで、強烈な減速性能を発揮する。

ホンダRC213V カーボンディスクブレーキ
ホンダRC213V カーボンディスクブレーキ

「Moto2やMoto3で使っているフロントブレーキディスクはステンレススチール製なので、気温や天候に関係なくブレーキレバーを握れば普通のバイクと同じように効力が立ち上がってきます。ところがMotoGPマシンに装着されているカーボンディスクは、熱が入らないとほとんど利かないんです。コースに出た当初は、ビックリするほど利きません」

「ところがレバーを握って1~2秒すると、急激に効力が立ち上がり始めて猛烈に利く。『ウワッ! 利かない!』と思って強く握ると、急に“ガコーンッ!”という具合にね。ビックリブレーキみたいになってしまうんです……」

 MotoGPライダーたちはディスク温度を適切な状態に維持したうえで、止まるためではなく限りなく速く走るためのコントロールを行う。シームレスミッションによる猛烈な加速にブレーキングによる強烈な減速など、技術面でも身体面でもライダーにかかる負担は計り知れない。「(走行中は)体を休ませられる瞬間がないですよ」と中上は笑う。

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