更新日: 2018.03.06 14:45
ホンダ全日本ロードJSB新王者が口にする「完敗」の重み/高橋巧ロングインタビュー
2017年はホンダCBR1000RRがフルモデルチェンジされ、ストレートスピードの速さという武器を得た。だが開発に手間取り、自身が求めるレベルまで旋回性能を高められなかった。
「電子制御がガラリと変わって扱いやすくはなりました。でも、思うようにスライドさせることができなくて」
ダートトラック出身の高橋は、もともとタイヤを滑らせて走ることが得意だ。しかし、ただスライドさせるだけでは意味がない。いち早くコーナーを立ち上がり、いち早く加速態勢を取るためのスライドこそが、好タイムにつながる。それが意のままにはならなかった。チームにうまくリクエストを伝えることもできなかった。
ホンダの高橋が2勝を挙げたが、残り7レースで優勝したのはヤマハ勢だ。ベテランの中須賀が5勝、22歳の若手ライダー、野左根航汰が2勝をマークした。
2015年のデビュー以来、ヤマハYZF-R1は熟成を重ね続けている。2017年にデビューしたばかりの新型CBR1000RRは、まだその域まで達していないとも言える。また、メーカー直営とも言うべきワークス体制でJSB1000に臨むヤマハに対して、高橋はホンダのトッププライベーターであるMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaから戦いを挑んでいた。
マシン。体制。言い訳しようと思えば、いくらでもできる。だが高橋は、それをよしとしない。
「満足できるマシンに仕上げられなかったのは、自分の責任です」と、マイナス要因をすべて自分のこととして引き受ける。
2018シーズンは、ホンダも『チームHRC』としてワークス体制でJSB1000に参戦する。ゼッケン1をつけて高橋が走らせるCBR1000RRは、ワークスマシンとして最善、最高のパーツが組み込まれることになる。名実ともに言い訳できない環境がそろった。
「いちばん走りやすい環境を与えてもらえる。その立場をうまく利用しながら、他のチームにはできないことをして、結果を残したい。予選が苦手とか、レース序盤でのタイム出しが苦手とか、そんなことは言っていられません」
自己分析はあくまでも控えめな高橋だが、熱いプライドものぞく。
「今までやってきたことが間違っているとは思っていません。2017年は負け戦になってしまったけど、劣っていると思ったこともない。これまでの自分が積み重ねてきたものを信じて、変えるべきところは変えて、ライバルを負かしたい」
2017年はスーパーバイク世界選手権(SBK)第10戦ポルトガル大会、第12戦スペイン大会にスポット参戦した。海外では初めてのレース。高橋は第10戦ポルトガル大会で、第1レースを15位、第2レースを10位と走るたびにポジションを上げ、多くを学んだ。
「いつもと違うマシンで、いつもと違うレースに参戦することで、考え方が幅広くなったと思います。『レース序盤からガンガンいかなくちゃダメなんだな』とか、アベレージスピードの上げ方とか……。スーパーバイクライダーたちはさすがにすごかった。自分には足りなかったものがたくさん見えました」
トレーニングにも力を入れ、5、6キロも減量した。「損することはありませんから」と静かに微笑む。
「誰かの、何かのせいにしたって、何もよくはならない。反省して、どうすればいいのか考える。そして自分でどうにかできる部分は、自分でどうにかする」と高橋。有言実行は、いつか来る喜びの瞬間のためだ。
「連覇すれば、もっと喜べるかもしれませんね。いや、連覇しても、内容次第かな……」
ゼッケン1にふさわしいレースができたそのときまで。誰もが真のチャンピオンだと認めてくれるそのときまで。チャンピオン争いに勝ち、レースに負けた2017年の雪辱を果たすそのときまでは、冷静に、淡々と。