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投稿日: 2018.05.15 16:57
更新日: 2018.06.26 16:10

スペインGPでの衝撃のクラッシュは最新ライディングフォームがもたらした災厄?/ノブ青木の知って得するMotoGP


MotoGP | スペインGPでの衝撃のクラッシュは最新ライディングフォームがもたらした災厄?/ノブ青木の知って得するMotoGP

 イン側に体を落とすメリットは、もうひとつある。「バンク角を稼げる」のだ。……この言い回し、バイクレース界ではよく使われるものだが、一般的な使い方とはちょっと違うかもしれない。「バンク角を稼ぐ」とは、コーナリング中により深くバイクを寝かすことではなく、その真逆。あまりバイクを寝かさないようにすることを指す。要するに、ライダーが体をイン側に大きく落とすことで、相対的にバイクを寝かさずに、コーナリングスピードを高めているのだ。この辺りも詳細は難しい話になるので、また別の機会にでも(笑)。

 それらメリットがある一方で、デメリットはとにかくアウト側が見えないということ。ワタシも同じようなフォームでMotoGPマシンのテスト走行をするが、そりゃもう、アウト側はほとんど見えない。ペドロサからも、ロレンソの動きはまったく見えなかったはずだ。ちなみに、ライダーの頭がバイクの中心に残っている昔ながらのフォームは、アウト側もよく見える。スペインGPでの多重クラッシュは、誰を責めるでもないレーシングアクシデントのひとつだが、最新フォームがもたらした災厄と言うことはできそうだ。

 ちなみにMotoGPライダーのみんながみんなイン側に大きく体を落とすのには、理由がある。それは、「みんながみんなイン側に大きく体を落としているから」だ。禅問答のようだが、コレ、割と真実だ。要は速いライダー(最近だとマルケスですね)のフォームを、みんなこぞってマネするワケです。「なんだよアイツ速いじゃんか」、「アイツのフォーム独特だな」、「やってみっか」、「あ、意外とイイな」、「じゃ、コレで」→フォーム大流行、となるのだ。

全日本ロードの最高峰、JSB1000でも肘をするライディングフォームを取入れるライダーが多くいる
全日本ロードの最高峰、JSB1000でも肘をするライディングフォームを取入れるライダーが多くいる

 実はフォームに限らず、MotoGPマシンに使われるテクノロジーも似たところがある。どこかのチームが新技術を開発・投入し、それがどうも速さにつながっているようなら、すかさずマネをする。「オリジナリティがないな!」と思われるかもしれないが、いやいや、モータースポーツ史においてマネ=コピーが常に重要な役割を果たしてきたことは、レース好きな皆さんなら思い当たるフシが大いにあると思う。

 いずれにしても非常に残念なクラッシュだったわけだが、遠因としてもうひとつ思うのは、「今のMotoGPはつくづく余裕がないんだなぁ……」ということだ。タイヤはみんな同じのワンメイク、エンジンや電子制御の開発もままならず、というレギュレーションの厳しい縛りのなか、ストレートでピュッとライバルを抜くなんてシーンはほとんど見られなくなった。

 今回のクラッシュも、なかなかロレンソを抜けないドビの苛立ちが手に取るように分かったし、ペドロサもあの場面で待つという選択肢はなく、インを突くしかなかっただろう。

 ライバルを抜けるのは、もはや難しくてクラッシュのリスクも高いブレーキング時ばかり。いやはや、MotoGPライダーは大変だ……。

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■青木宣篤

青木宣篤
青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。


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