さて、ドゥカティでは得意の走りがなかなかできずに2017年シーズンは苦しみに苦しんでいたロレンソだが、ここへきて2連勝するまで前進したのは、マシンのセッティングがうまくいったことに加えて“タンク形状の変更”が功を奏したからだ。「えええぇ~、最新電子制御のカタマリとも言われているMotoGPマシンが、そんなアナログなことで良くなったり悪くなったりするの~!?」と驚かれるかもしれない。でもタンク、ものすごく大事です!
レーシングライダーは常にバイクとの触れ合いを求めている。できるだけたくさんの接点でバイクを安定させて、安心したい生き物なのだ(安心できるからこそ攻めることもできる)。タンク形状は、主にコーナリング中に外足(コーナー外側の足)の内ももでマシンを押さえつけるために非常に重要だ。よく見ると多くのライダーがパッドを当てているが、これは好みの形状&内ももグリップ力を得るためのものだ。余談だが、マルケスが使っている表面凸形状のタンクパッドは「ニーグリップパッド」という名でホンダ・レーシング(HRC)から普通に売られている。誰でも購入できますよ。合うかどうかはアナタ次第ですが……。


グリップレベルが低く、接地感もなく、要するに通常なら不安でしょうがない状況でガンガン攻めていくロレンソのライディングスタイルは、マシンとの接点が特に重要になる。せめて接点で安心感を得なければ、あんな走りはとうていできない。だからタンク形状にもこだわり、今シーズンになってようやく好みの形状が得られると、たちまち好成績を収めるようになったというワケだ。
ただし、非常にシビアなライディングスタイルであることには変わりない。条件が揃わなければいい成績が得られないという人間臭いムラが、ロレンソの魅力であり、弱点でもある。次のアッセンTTは彼にとっての鬼門。ここで調子を崩さなければ、チャンピオンシップでも上位進出が望めそうだ。
そして来季、ロレンソはレプソル・ホンダへの移籍を発表! 移籍話が早すぎて、今、目の前のシーズンに集中できません……。それはさておき、コースによる好不調がハッキリしているドゥカティに慣れるのには1年半ほども要したロレンソだが、ホンダならそこまで苦労はしないだろう。一部では、ホンダRC213Vは“マルケススペシャル”なんて言われているが、さまざまなコースで高いパフォーマンスを発揮する日本車らしいフレキシブルさもしっかり備えている。さて、我々がレプソルカラーをまとうロレンソの姿に慣れるのが先か、ロレンソがRC213Vに慣れるのが先か……。
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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。