更新日: 2019.03.28 21:17
“タイヤ保たせ合戦”の開幕戦。ミシュランタイヤの使い方をマニアックに解説/ノブ青木の知って得するMotoGP
Text:Go Takahashi
ちなみにお話しておくと、ミシュランのリヤタイヤで効果的に減速するには、ゴムを使うのではなく、構造をたわませるとよい。……ちょっと何言ってるか分からないかもしれないが、「そういうこともあるんだー」ぐらいに聞いてほしいのだが、ゴム、すなわちトレッド表面のコンパウンドを使って減速するのではなく、構造そのものをつぶすことで減速力を得る、ということだ。
そのためには、ブレーキングでフロントだけに荷重を乗せるのではなく、リヤにも荷重を残す必要がある。ハードブレーキング時にはどうしてもリヤタイヤが浮いてしまうが、接地している時にいかにリヤタイヤをつぶせるかが勝負なのだ。……ホントに何言ってるか分からないと思いますが、そういう世界だということをご理解いただけると幸いです。
最後に、「リヤで加速」する。これはまぁ、当たり前のことですね。スロットルを開ければリヤタイヤが駆動し、前進する。当たり前だが、リヤタイヤが発揮する強力な加速力は、ミシュラン最大の強みでもある。共通ECUでトラクションコントロールの精度が落ちた今、ミシュランの「加速するリヤタイヤ」を生かすには、ライダーが右手で超繊細にスロットルコントロールするしかない。
よくライダーが「タイヤがタレてしまって、スピンして前に進まなかった」なんてコメントするのを聞くが、これは加速させたくても加速しないもどかしい状態のこと。大事なレース終盤にそうならないようにタイヤを温存させるワケですが、ブレーキでも旋回でもリヤタイヤを使うので、これが非常に難しいのです……。
ことごとくリヤタイヤ、ということがお分かりいただけましたでしょうか? 開幕戦を見た限りでは、ここ最近の2シーズンと同じように、ドヴィとマルケスがズバ抜けてうまくミシュランのリヤタイヤを使いこなしている。今シーズンも、やはりこのふたりが王座を競い合うことになるかもしれない。
そして第2戦アルゼンチンGPを目前に控えて改めて注目しておきたいのは、開幕戦のトップ集団の中にオジサン期待の星、40歳のロッシがいたことだ。これは本当にスゴイこと。ロッシはミシュランタイヤを使いこなすために、いろんなワザを効かせている。日頃、ダートで積み重ねているトレーニングがとにかくスゴくて、一緒にダートを走る若くて速いライダーから走り方をどんどん吸収しているのだ。
バレの圧倒的スゴさは、例え自分より遅いライダーであっても、ちょっとでも採り入れるべき長所があると思えば、積極的にマネすることだ。彼ほどのキャリアがありながら、40歳にもなってそれだけ柔軟な姿勢を持ち続けていることは本当にスゴイと思うし、マネできてしまう能力の高さにも恐れ入る。
「オレなんかオジサンだから」と、人生の何かを諦めてしまっているそこのアナタ。まだまだこれから、ですぞ……!
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■青木宣篤
1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。