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投稿日: 2019.06.14 17:18
更新日: 2019.06.14 17:19

誰もがペトルッチの勝利を祝福する理由。無名から昇りつめた過酷なMotoGPキャリア


MotoGP | 誰もがペトルッチの勝利を祝福する理由。無名から昇りつめた過酷なMotoGPキャリア

 ペトルッチのまっとうなMotoGPキャリアは2015年に始まった。プラマック・ドゥカティが中古のデスモセディチGPに乗るチャンスを与えたのだ。2015年の雨のイギリスGPで、ホームウイナーのバレンティーノ・ロッシを追尾していたペトルッチは、初の表彰台を獲得した。2年後、ロッシを下して初めてのグランプリ優勝を果たすのに0.063秒以内のところまで迫った。それは第8戦オランダGPでのことで、またしても雨だった。彼は大柄でより体重が重いので、ウエットコンディションでグリップが得られるのだ。

 今年、ドゥカティのファクトリーはついに、アンドレア・ドヴィツィオーゾとともにペトルッチを最新スペックのマシンに乗せる契約を締結した。だがそれはたったの1年間の契約であり、新たな戦略を試すためのものだ。ドヴィツィオーゾとホルヘ・ロレンソを対決させ、ポイントを奪い合わせ、全体的に開発プロセスを混乱させるよりも、ファクトリーのために、ともに仕事をするふたりのライダーを擁することにしたのだ。

 ファクトリーがライダーと1シーズンだけの契約を交わすのは異例のことだ。ほとんどのライダーとチームは2年契約を交わす。ライダーが結果を見てパニックになり、混乱するのを避けるためだ。ペトルッチの1年契約は、ドゥカティが彼にあまり信頼を置いていなかったことを示唆している。そして最初の数戦が終わると、すぐに人々はペトルッチが年末には仕事を失い、ジャック・ミラーに取って代わられるだろうと噂していた。

 イタリアGPがすべてを変えた。第5戦フランスのル・マンでドゥカティは、今月後半のカタルーニャGPの後に、2020年のファクトリーのラインアップを決めると発表した。ペトルッチの次の契約は何も締結されていないが、もし彼が2020年の契約を得ることができなかったら、ドゥカティの本社があるイタリアのボローニャの通りで暴動が起きるのは確かだ。

 イタリアGPの週末の間、ずっとペトルッチは風邪を引いていた。彼の状態にあったらほとんどの人が休みを取るだろう。だからこそ、正義が報われたような勝利だった。まるでピットレーン全体が彼を激励しているようだった。誰かがMotoGPレースに勝った時に、これほどの喜びがパドック全体に見られたことは、ほとんど目にしたことがない。

 そして勝利の祝賀が行われた。数千人のファンが力強くイタリア国家を歌うなか、ムジェロの表彰台最上段に立つという経験をしたイタリア人は、誰でもその思い出を死ぬまで持ち続けるだろう。

アンドレア・ドヴィツィオーゾと仲の良さを見せるダニロ・ペトルッチ
アンドレア・ドヴィツィオーゾと仲の良さを見せるダニロ・ペトルッチ

 終わりなく続くレース後のインタビューでペトルッチは、彼の勝利をチームメイトのドヴィツィオーゾに捧げた。ドヴィツィオーゾは2019年シーズンに向けたペトルッチの心身のトレーニングを手伝っていた。ペトルッチは、2020年もレースを続けるために高いパフォーマンスを発揮することに囚われていたが、それは良い結果を出す助けにはならなかった。

「開幕からの3戦では、状況は本当に厳しいものになり、とても難しい挑戦になった。もし今年1度も優勝できなかったら、仕事を変えなければならなくなると、自分に言い聞かせていた。アンドレアは僕をずいぶん助けてくれた。彼は将来については考えずに、今のことだけを考えるように言ってくれた」

 ペトルッチはレースの多くの場面で首位にいたが、最終ラップでマルケスとドヴィツィオーゾに最初のコーナーで抜かれた時には、彼の努力のすべてが水泡に帰すかに見えた。しかしふたりはもつれ合い、ペトルッチにイン側に入り込むチャンスが訪れた。その過程でチームメイトのドヴィツィオーゾを捉えたのだ。「スペースが見えたのでそこに飛び込んだよ!」

「最終コーナーを出たところで、もしこのレースが過去の自分の人生のようになるのなら、僕は最終コーナーをトップで通過して、3位でフィニッシュするようになるんだろうと考えていた。4位や5位、6位に順位を落とすことになるかもしれないとね。他のライダーに抜かれるのを待っていた。そしてフィニッシュラインを通過し、僕は叫び声を上げたんだ!」

 記者会見でペトルッチは、ドヴィツィオーゾに謝罪した。「あの追い抜きはすまなかったよ」そしてペトルッチはドルナのテレビコメンテーターを務めるスティーブ・デイに慰めの言葉をかけた。

 言い換えれば、ペトルッチは最高峰クラスのグランプリ優勝者の殿堂に入ったとはいえ、今も普通の男なのだ。彼が今この瞬間も勝利を祝っていることは間違いないが、(グランプリの初優勝は一回しかないのだから)一方では、キャリアのなかでも最悪の週末のひとつを過ごしたロッシに同情しているだろう。

■ロッシとの出会いと会話「情熱はバイクに向けられている」


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