それでも渡辺が「ここのところライバルも軒並みエンジンが速くなってきたので、ウチがズバ抜けているとは言えないのが正直なところ」と語るように、エンジン優位とは言いがたい状況だ。しかし渡辺は「ライバルとの競り合いのなかで、自分のマシンが『速いな』と思える場面も少なくありません。高い次元にあることは間違いない」とも言う。
エンジンパワーの有利さは今も十分に感じながらも、「そのパワーを生かすために、もっとマシンを使いこなさないといけません」と渡辺。「今のJSB1000は、高橋選手や中須賀選手を筆頭に、長年レースを続けてきた勝負強いライダーが揃っています。彼らに打ち克つためには、どんなコンディションにも左右されない、ストライクゾーンの広いマシンを作り込まなくては」

渡辺は「課題はコーナリングにある」と言う。「ZX-10RRの車体は、フロントまわりからライダーに伝わってくるインフォメーションが非常に豊富なので、安心して攻められるという強みがあります。ただ、コーナリングを極めていくと、何かを得れば何かを失うのが常。今年はエンジンが新しくなりパワーアップした分、車体のセッティングや電子制御も変える必要があり、今はまだ車体との最適なバランスを見つけているところです」
「結局は、いかにタイヤを使い切れるかが勝負を分ける。気温が高い時、低い時、そして雨。どんな状況でどんなタイヤを選んでも、安定して同じフィーリングが得られるような車体を作り込んでいかなければいけません」
「新型ZX-10RRのトータルパフォーマンスが高いのは確か。SBKマシンはタイヤが違うから何とも言えませんが、参考になるデータも多い。それに僕もカワサキ3年目で、走りの引き出しが増えている」

最後に、渡辺はこう締めくくった。
「マシンを煮詰め、自分の走りもそれに合わせることができれば、勝機はあると思っています。去年までに比べると、ライバルとの差は本当にわずかなところまで詰められている。あと1歩なんですよね」