唐突ですが、金属のカタマリであるフレームは、しなります。まずこのことを信じてください。確実にしなる。少なくともライダーはそう感じる。ワタシの経験で言えば、スズキのMotoGPマシンが硬い方向からしなる方向にシフトしていった時に、いろいろと感じるものがあった。ざっくりとパート分けすると、ブレーキング、旋回、立ち上がりでそれぞれ別のフィーリングがある。
ブレーキングでは、ヘッドパイプまわりの力がどうフレームに伝わってくるかで、フィーリングが変わることを体感した。あくまでも一例だが、ブレーキング時に前後方向にギューッと寸詰まりになるように感じるフレームもあった。つまり、前後方向のしなりですね。最近、フロントフォークにカーボンアウターチューブを採用するマシンが目立つが、これは車体まわりのしなりを多くすることで、接地感を得ようとしているのだ。
旋回では、主にメインチューブ(フレームの上側)の剛性を感じることができる。ゴツく見えるメインチューブだが、肉厚を相当薄くしてある部分もあり、細かく剛性をコントロールしている。最近、メインチューブにカーボン巻きをしているマシンが目立つのは、アルミフレームにカーボンを加えることでより繊細に剛性コントロールをしつつ、しなり感も持たせようとしているからだ。

立ち上がりでは、フレームのしなり量が効いてくる。……もはや何を言ってるのか分からないかもしれませんが、まず金属製フレームがしなるということを信じていただいたうえで、立ち上がりではそのしなりの量、しなりストロークが問題になってくることをご理解ください。
MotoGPではオーストリアのメーカー、KTMが鉄フレームにこだわっているが、実は鉄フレームはしなりやすいものの、しなりストロークが足りない。一方でアルミフレームは、基本特性としてはしなりにくい反面、剛性をコントロールしやすく、しなりストロークも得やすい。このしなりストロークが、立ち上がり性能に大きく影響してくる。最近はカーボンスイングアームが目立ってきたが、これも車体全体でしなりストロークを増やそうという狙いだ。ホンダはかなり顕著にしなる方向性を狙っている。
このように、大まかに言えばできるだけしならせようとしている昨今のMotoGPの車体トレンド。ミシュランタイヤを極力使い切ろう、というのが主な狙いだ。そのなかでも、クアルタラロが使っている旧型(とされる)YZR-M1の車体はかなり硬い。ブルブルが起こるのは、バンプによって車体が揺さぶられた時に、それを収束させるだけのしなりストロークが足りないからだ。