もちろん、サスペンションの減衰(簡単に言えばサスペンションの硬さ)でごまかす方法もある。だが、ワタシもスズキのマシンで経験済みだが、サスペンションだけではとてもじゃないが収束できず、アクセルを戻さなければ転んでしまう恐れがあるほど強烈なブルブルなのだ。フレームをしなやか方向に変えたところ起こらなくなったので、「しなり大事だな!」と痛感したものだった。
マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が、クアルタラロほどひどいブルブルに見舞われずに済んだのは、ファクトリーマシンの特権・最新パーツ投入によりそれなりのしなり量が得られているから。カーボンフロントフォークもそのひとつだ。それでもまだまだヤマハは硬い。予選の1発タイム争いでは速いのに決勝では沈みがちだったり、コースによる好不調の波が激しいのは、しなりが足りない証だ。

ビニャーレスは久々に勝ったが、ヤマハのフレーム特性と今のミシュランタイヤの特性とのマッチングは、まだしっくり来ていない。クアルタラロの“6月ピーク疑惑”(←ワタシが勝手に言ってます)も含めて、間もなく始まるドイツGP以降のヤマハの動向には大いに注目したい。
それにしても、フレームのようにデカくて頑丈そうな金属パーツがしなるなんて、なかなかイメージできないと思う。あまりにも微妙すぎて、実際に計測してもしなりストロークが数値化できるのかも分からない。
でも、その他のパーツとの組み合わせにより、ライダーは確実にしなりを感じていて、攻められる・攻められない、あるいは最後までタイヤが保つ・保たないの違いとして表れる。そして、勝てる・勝てないの差になる……。バイクって、本当にものすごく繊細な乗り物なんですよ……。
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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。