更新日: 2019.09.13 21:57
JSB1000マシンフォーカス:「まだまだ武器が足りない」。改造範囲が広いからこそ難しいGSX-R1000のバランス取り
ヨシムラのエンジニアを務めている戸井田剛は、「ライダーのコメントやデータ解析により、エンジン特性をさらに扱いやすくすることに力を注いでいます」と説明する。
「従来はピークパワーを重視して開発し、一定の成果はえられました。しかし、ただパワーが出ればいいというものではありません。闇雲なパワーは、スライドやウイリーを誘発しやすいといった弊害をもたらす可能性もあります」
「また、パワーアップに応じて車体部品も変えていかなければならない。パワーをより扱いやすくしながら車体とのマッチングを高めることが、目下の課題です」
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それが加賀山の言う「バランス取り」の内訳だ。繊細なだけに簡単なことではなく、時間をかけながら微調整を続けなければならない。7代目GSX-R1000は、デビューイヤーこそ未勝利ながらランキング2位につけたものの、2シーズン目の2018年にバランスを崩した。立て直しの3シーズン目となった今年、すでに2位表彰台を得ていることは、苦境の中でも大きな1歩と言える。
「まだまだ武器が足りない」と加賀山。「レーシングマシンは、何かひとつ突出したパフォーマンスが欲しいんです。そこがまだ見付けられていない。ただ、どこかが突出すれば、またそこに合わせてバランスを取らなければならない。難しいんですよ」と苦笑いする。

スズキのMotoGPマシンGSX-RRは、明らかにハンドリングを武器としている。第12戦イギリスGPの最終ラップ・最終コーナーでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)のインを突いて優勝をさらったアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)は、GSX-RRの旋回性能を鮮やかに見せつけた。
加賀山は、「レース専用のMotoGPマシンと量産車ベースのJSB1000マシンを比べることはできません。コンセプトもまったく違う。でも、スズキのレース部門にハンドリングという武器に関する情報があるのは確か。ヨシムラのエンジニアはスズキとの連携も密なので、少しでも情報を生かしていけたら、とは思っています」
昨年までの加賀山は、Team KAGAYAMAのオーナー兼ライダーとしてJSB1000に参戦していた。今年はTeam KAGAYAMAを“TK SUZUKI BLUE MAX”として存続させながらも、ライダーとしてはヨシムラ入りをしている。
「45歳にもなってトップチームに抜擢してもらえて、最先端のバイクに乗れるなんて、幸せなことですよ」と加賀山は笑う。
「昨年まではチーム全体を回すことと走りとを両立する必要があった。今年は走りに専念できる体制です。自分がライダーとしてもどこまでやれるか確かめたいし、今までの経験をチームに役立てられれば、とも思っています」
「レースで勝つには、モノだけではなく、経験に基づく判断、物事の進め方、メカニックの考え方や作業など、すべてを整える必要があります。今はヨシムラのやり方を学ばせてもらっている段階ですが、いずれは自分のアイデアも生かしてもらえればうれしいですね」
戸井田も、「加賀山選手はスズキ車で26年もレースを続けている大ベテラン。彼の持つ豊富な引き出しを開発に生かせたら」と期待する。
ところで、ヨシムラといえばエンドユーザーにとってはマフラーメーカーというイメージが強い。加藤陽平監督は、「JSB1000は音量が105dB以下でなければならず、昨年からは測定回転数も5500rpmに高められるなど、より厳しいレギュレーションが課せられています。その中でもさまざまな工夫を凝らすことで、最適な特性を発揮しています。マフラーの作り込みに関しては、ライバルのファクトリーチームにも決して負けていません」と力強い。
「我々のレース活動は、市販マフラーの先行開発といった意味合いが強いのは確か。レースで磨かれた技術は、将来的に市販のマフラー“サイクロン”にもフィードバックしていきます」