再び泥臭い人間界に話を戻すと、チームもライダーもオトナじゃないな、と思わされたのがレッドブルKTMファクトリー・レーシングによるヨハン・ザルコのシーズン途中離脱劇である。
チームのオトナじゃないさまは、契約書に見て取れる。ワタシもかつてGPライダーとして契約を交わしたことがあるが、欧米チームの契約書は細かいことまでビッ……シリと書かれていて、めちゃくちゃ分厚い。
そのくせ、最後の最後に「なお、ライダーのパフォーマンスに納得できない場合、チームはいつでもライダーを解雇できる」みたいなことがアッサリと記されているのだ。
さんざん読まされてきた前段はいったいなんなの! とズッコケてしまう。結局チームの都合で解雇できちゃうなら、こんな分厚い契約書なんて意味ないじゃん、と思ったものだ。

ザルコとKTMでどんな契約書が交わされていたかは知るよしもないが、恐らくは「最後の一文」が発動されたのだろう。「チームもオトナじゃないよな~、怖いよな~」と思いつつ、もしかしたらめちゃくちゃオトナな判断だったのかもしれない。
というのは、ザルコのピットでの立ち居振る舞いに問題があったことも否めないからだ。成績がいい時にピットの雰囲気がいいのは当たり前。成績がイマイチの時、思うようにいかない時にどれだけ明るさを保てるかが、レーシングライダーをやっていく上では非常に大事だ。
ワタシも現役時代、チームメイトのケニー・ロバーツJrがベラボーに速かったことがあるから、腐ってしまうザルコの気持ちは痛いほどよく分かる。でも、そういうネガな気持ちに負けては、ファクトリーライダーはやっていけない。言動には常に気を使う必要がある。
サテライトチームなら「なんかライダーがゴシャゴシャ言ってんぞ」ぐらいで済む。でもファクトリ-チームだとそうはいかない。直接メーカーのお偉いさんの耳に入ってしまうし、雑誌屋さんたちには面白おかしく書かれて尾ひれがついて話が雪だるま式に膨れあがるのだ。
怖い怖い。オトナにならなくちゃね……。