レギュレーションで義務付けられている共通ECUを受け取れるのはレースウイークに入ってから。そこからECUのセットアップを進めなければならないため、かなり不利な戦いを強いられた。ECUはエンジン制御の要となるパーツだが、事前テストもできないため、これが初日のエンジン不調の原因となった。この共通ECUのセットアップがワイルドカード参戦ライダーにとって、第一の関門となっている。

「FP3でバイクがやっと走るようになりました。短い時間でしたが、世界グランプリのライダーと走ることができ、コーナーでは負けていないと思いました。この経験をこれからに活かしていきたいです」と長谷川は語っている。
Moto3クラスがスタートした2012年当初、Moto3マシンはスーターやカレックスなどのオリジナルシャシーにホンダの市販レーサー、NSF250Rベースのエンジンを搭載したものと、KTMのRC250のワークスマシンがメインとなっていたが、KTMが投入したワークスマシンが強く、2012年、2013年とKTMが連覇。2014年からはホンダもこれに対抗してワークスマシンのNSF250RWを投入した。
ただし、限られたワークスマシンのみがトップを争うことを避けるため、現在のMoto3マシンは、エンジン価格の上限などの規定が導入された上で、各マニュファクチャラー(メーカー)は、チームから要望があった場合、最大12台、同じスペックのマシンを供給しなければならないなどの規則が作られており、マシンのパフォーマンスが拮抗するようになされている。こうした結果、現在のMoto3クラスは毎レース接戦が展開されている。
ここ数年、ワイルドカード参戦ライダーは苦戦が続いているが、その大きな理由がレギュラーライダーたちが駆るマシンとワイルドカードライダーが駆るマシンのポテンシャル差にある。
■ワイルドカードでポイント獲得の山中

一方、もうひとり、ワイルドカードで日本GPのMoto3クラスに参戦した山中琉聖(Estrella Galicia 0,0)は、Moto3ジュニア世界選手権にレギュラー参戦しており、今回の日本GPにもMoto3ジュニア世界選手権で乗り慣れているNSF250RWで参戦し14位入賞を果たした。
山中は2019年所属するエストレージャ・ガリシア・0,0より、2020年シーズンのMoto3クラスにレギュラー参戦することが決まっており、今回が2019年シーズン4回目の世界グランプリMoto3クラス参戦(代役参戦1回、ワイルドカード参戦3回)だった。

ワイルドカード参戦ライダーがマシン差で苦戦するのは日本GPに限ったことではない。例外はMoto3ジュニア世界選手権参戦ライダーがワイルドカード参戦する場合だが、約2週間ごとに実戦を重ねてきているレギュラーライダーたちのスキルは高く、シーズンが進めば、マシンのセットアップも決まっているため、レギュラーライダーたちと同等のマシンを駆っていても、その壁は厚いのが現状だ。
なお、Moto2クラスでは2019年シーズンはワイルドカード参戦は受け付けられていない。これは2019年からオフィシャルエンジンサプライヤーがトライアンフに変更されて1年目のシーズンのためだ。
Moto2クラスも2019年シーズンでデータが収集され、2020年以降はワイルドカード参戦が復活する見込みだ。