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投稿日: 2019.10.25 22:09
更新日: 2019.10.25 22:18

【MotoGPコラム前編】90%が心理戦のバイクレース。日本GPの燃費問題も克服した王者マルケスの強さ


MotoGP | 【MotoGPコラム前編】90%が心理戦のバイクレース。日本GPの燃費問題も克服した王者マルケスの強さ

 決勝日、マルケスは燃料がギリギリであることを常に承知していた。実際にマルケスは、第13戦サンマリノGP、第15戦タイGPでやったことをやるべきかどうか真剣に考えていた。それは、レース中にライバルのスリップストリームを活用して燃料をセーブし、フィニッシュ間近で攻撃に転ずることだ。

 だが、マルケスは決勝日朝のウォームアップ走行でバイクに非常に良い感触を得ていた。そのため、マルケスは最初の数周で全員を引き離し、その後はホイールスピンを最小限にしてスムーズに走り、燃費消費の管理に集中することにした。ホイールスピンほど燃料を無駄に消費することはない。なぜなら前に進む代わりにタイヤをスピンさせることに燃料を使うことになるからだ。

最初の数周で全員を引き離したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
最初の数周で全員を引き離したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 それにもかかわらず、最後から2周目半ば、あと約7.2kmを残すところで、マルケスのホンダRC213Vの燃料アラームが作動した。この時点でマルケスは2.3秒差で首位につけていたが、次の半周でクアルタラロに対し0.5秒を失い、最終ラップではさらに1秒失った。

 今になって、マルケスはレースをすべてをコントロールできていたと言うのは簡単なことだ。だが燃料とタイヤのラバーが少なくなっている状況で、クアルタラロのような才能あるライダーが後ろに迫ってくることは、いい気分にはならないだろう。

 しかし、マルケスは気が休まらなかったとしても、そのことをレース後に明らかにすることはなかった。繰り返すが、バイクレースは心理的側面が(ほとんど)すべてなのだ。

レース後のパルクフェルメで笑顔を見せるマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
レース後のパルクフェルメで笑顔を見せるマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

■共通ECUによって増えたライダーの仕事

 こうしたことはどれも数年前には起きなかった。ドルナがローテクでライダー任せのソフトウェアを導入した2016年以前、燃料消費などの厄介な物事はバイクに取り付けられた小さな黒い箱が処理していた。

 そのためライダーはバイクをできるだけ速く走らせるという本来の仕事に集中でき、燃料をセーブすることを考えなくてもよかった。なぜならエンジン管理システムがすべてをやってくれたからだ。バイクのコンピュータは、ライダーがフィニッシュラインに至るまでに燃料を使いすぎていると計算すると、単純にトルク伝達量を減らすようになっていたため、燃料消費も減る仕組みになっていた。

 ライダーはこれを非常に嫌っていた。最後の表彰台圏内を賭けた必死のバトルの最中に自分がいるところを想像してみてほしい。最終ラップでライバルをどうにかして抜こうとしている時に、エンジンが不思議なことに数馬力を失い、それに対して何もできることがないのだ。できることはライバルに負けて、不機嫌にピットレーンに戻ることだけで、表彰台のパーティに招かれることはない。

 現在のやや低性能(神に感謝だ)なエンジン管理ソフトウェアは、この仕事をライダーの脳と右手首に戻すことになった。だから、ライダーは単にバイクのスロットルを開けること以上のことをまた考えなければならなくなった。

 MotoGPはバイクレースであり、燃料走行をするなどナンセンスだと不満に思うかもしれないが、レースというものは常にこういうものだった。何十年もの間、本当に多くのライダーたちが、チェッカーフラッグに到達する前に燃料を消費し尽くして、レースを失ってきた。レースというものは、スロットルをできるところまで開けることが重要なのではない。それ以上に複雑なものなのだ。

【後編に続く】


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