■2023年のチャンピオン候補と戦力図
ここからは、1メーカーずつ、2023年シーズンの参戦体制を確認していこう。
■2023年MotoGPクラスエントリーリスト
No. | Rider | Team | Motorcycle |
---|---|---|---|
5 | ヨハン・ザルコ | プラマック・レーシング | ドゥカティ* |
10 | ルカ・マリーニ | ムーニーVR46レーシング・チーム | ドゥカティ* |
12 | マーベリック・ビニャーレス | アプリリア・レーシング | アプリリア |
20 | ファビオ・クアルタラロ | モンスターエナジー・ヤマハMotoGP | ヤマハ |
21 | フランコ・モルビデリ | モンスターエナジー・ヤマハMotoGP | ヤマハ |
23 | エネア・バスティアニーニ | ドゥカティ・レノボ・チーム | ドゥカティ |
25 | ラウル・フェルナンデス | RNF・MotoGP・チーム | アプリリア* |
30 | 中上貴晶 | LCRホンダ・イデミツ | ホンダ* |
33 | ブラッド・ビンダー | レッドブルKTMファクトリー・レーシング | KTM |
36 | ジョアン・ミル | レプソル・ホンダ・チーム | ホンダ |
37 | アウグスト・フェルナンデス | テック3GASGASファクトリー・レーシング | ガスガス |
41 | アレイシ・エスパルガロ | アプリリア・レーシング | アプリリア |
42 | アレックス・リンス | LCRホンダ・カストロール | ホンダ* |
43 | ジャック・ミラー | レッドブルKTMファクトリー・レーシング | KTM |
44 | ポル・エスパルガロ | テック3・GASGASファクトリー・レーシング | ガスガス |
49 | ファビオ・ディ・ジャンアントニオ | グレシーニ・レーシングMotoGP | ドゥカティ* |
63 | フランセスコ・バニャイア | ドゥカティ・レノボ・チーム | ドゥカティ |
72 | マルコ・ベゼッチ | ムーニーVR46レーシング・チーム | ドゥカティ* |
73 | アレックス・マルケス | グレシーニ・レーシングMotoGP | ドゥカティ* |
88 | ミゲール・オリベイラ | RNF・MotoGP・チーム | アプリリア* |
89 | ホルヘ・マルティン | プラマック・レーシング | ドゥカティ* |
93 | マルク・マルケス | レプソル・ホンダ・チーム | ホンダ |
*はインディペンデントチームライダー
■ドゥカティ
2007年以来となるライダータイトルの奪還に成功した上、コンストラクターとチームも制覇して主要3タイトルを独占したドゥカティ。ファクトリーのドゥカティ・レノボ・チームは、フランセスコ・バニャイアがディフェンディングチャンピオンとして、ゼッケンナンバー『1』とともに2023年に臨む。チームメイトとして新たに加わるのは、3回の優勝を飾ってサテライトから昇格となったエネア・バスティアニーニだ。
ニューマシンのドゥカティに大きな変更はなく、好調だったGP22の正常進化版と言えそう。カラーリングも、アンダーカウルにモンスターエナジーのロゴが加わった程度で、前年のイメージを継承している。


2022年にインディペンデントチームのタイトルを獲得したプリマ・プラマック・レーシングは、ヨハン・ザルコとホルヘ・マルティンのペアを継続する。3年連続で同チームから参戦するザルコは、今年こそ悲願の初優勝を目指す。バスティアニーニにファクトリー昇格のチャンスを奪われ、プラマックから継続参戦することとなったマルティンも期するところがあるはずだ。マシンはファクトリー仕様のデスモセディチGP23を使用する。
2022年からドゥカティのサテライトチームとして活動するグレシーニ・レーシングMotoGPは、チームを卒業したバスティアニーニの代わりにアレックス・マルケスが加入した。マルク・マルケスの実弟であるアレックス・マルケスは2020年のMotoGP昇格以来、初めてホンダ以外のマシンを駆ることとなった。
もうひとりのライダーは、ファビオ・ディ・ジャンアントニオが継続。ルーキーイヤーはランク20位に終わったが、「今シーズンに向けて300%のハードトレーニングを積んできた」とMotoGP2年目の雪辱に意欲を燃やす。グレシーニ・レーシングMotoGPが使用するマシンは、2022年型のデスモセディチGP22。ライトブルーとレッドの組み合わせは昨年から継承されている。


デスモセディチGP22を使用するもうひとつのチームが、バレンティーノ・ロッシがチームオーナーを務めるムーニーVR46レーシング・チームだ。2022年からMotoGPクラスへの参戦を開始したまだ若いチームだが、ルカ・マリーニとマルコ・ベゼッチがしばしば印象的な速さを披露し、ベゼッチは見事に2022年のルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。今年も引き続き、若くて勢いのいいイタリア人ペアの活躍が期待される。
タイトルスポンサーも、イタリアのプロキシミティバンキング&ペイメント企業であるムーニーが継続。ブラックを基調にイエローとオレンジのラインが描かれるマシンカラーリングも昨年とほぼ同様だ。


■ヤマハ
ヤマハはサテライトチームがなくなり、YZR-M1を使用するのはファクトリーチームであるモンスターエナジー・ヤマハMotoGPの2台のみとなった。ファビオ・クアルタラロとフランコ・モルビデリというライダーのラインアップに変更はない。
2023年型のYZR-M1は、新たにグレーが追加されたカモフラージュ柄が新鮮な印象を受ける。昨年はしばしばライダーからトップスピード不足が不満の声として挙げられていたが、オフシーズンではエンジンとエアロパッケージの改善に注力。2月に行われたオフィシャルテストでは、1年前のテストと比べて最高速が約7km/h向上するなど、その成果が現れていた。その一方、クアルタラロがニュータイヤでアタックしてもタイムが伸びないという症状に悩むなど、タイトル奪還と成るか、依然として予断を許さない状況だ。


■ホンダ
ヤマハと同様、マシン開発に苦しんでいる印象があるのがホンダだ。かつて常勝を誇った絶対王者が、2022年はまさかの未勝利という大スランプに陥り、マニュファクチャラーズ・ランキングでは最下位に終わってしまった。2023年、復活を期する年としたいホンダは、ファクトリーのレプソル・ホンダ・チームとインディペンデントのLCRホンダ・イデミツ/カストロールが参戦。レプソル・ホンダ・チームは6度の王者獲得経験を持つマルク・マルケスのチームメイトとして、撤退したスズキからジョアン・ミルが加入。LCRホンダ・イデミツは中上貴晶が継続、LCRホンダ・カストロールは、こちらもスズキに在籍していたアレックス・リンスというラインアップとなった。



スズキから新加入となったのは2名のライダーだけではない。スズキでテクニカルマネージャーを務めていた河内健氏が、2023年からはHRCでその手腕を振るう。

RC213Vの2022年型は「現行レギュレーション下で最大のモデルチェンジ」を謳っていたが、2023年型でも大掛かりな変更が加えられたようだ。マフラーがSCプロジェクト製からアクラポビッチ製に変更されたほか、リヤスイングアームがカーボン製からカレックスのアルミニウム製に変わっているのも目を引く。アッパーカウルの形状も一変した。
レプソル・ホンダ・チームのカラーリングは、レプソルを象徴する濃紺/オレンジ/レッドの組み合わせに変更はないが、シートカウルにトリコロールカラーをあしらうほか、ホイールカラーがオレンジからレッドになったことで、より華やかさを増した印象だ。

元WGP125ccライダーのルーチョ・チェッキネロが率いるLCRホンダは、中上貴晶のマシンは出光、アレックス・リンスのマシンはカストロールがサポートする。同チームながら、メインスポンサーが異なる唯一のMotoGPチームだ。

■KTM
MotoGP参戦7年目となるKTM。昨年、チーム部門で総合2位となったレッドブルKTMファクトリー・レーシングには、ドゥカティ・レノボ・チームからジャック・ミラーが移籍。もうひとりは2020年から同チームで戦うブラッド・ビンダーが残留する。また、テストライダーのダニ・ペドロサが第4戦のスペインGPにワイルドカード参戦することもすでに発表済みだ。MotoGPで唯一トレリスフレームを採用するRC16の2023年型には、新たに契約したMobil 1(モービル1)のロゴが掲げられる。


「心機一転」という言葉がピッタリなのが、インディペンデントのテック3だ。2019年からKTMのサテライトチームとして活動していたが、今年からはKTMのグループ企業であるガスガスの支援を受け、ガスガス・ファクトリー・レーシング・テック3として参戦することとなった。
ライダーも一新。ホンダで期待外れなシーズンを送ったポル・エスパルガロは2016年以来のチーム復帰だ。また、KTMをライディングするのは2020年以来となる。もうひとりのライダーは、今年唯一のルーキーとなる2022年のMoto2王者、アウグスト・フェルナンデスだ。ガスガスが使用するマシンは、KTMから供給を受けるRC16。真っ赤なカラーリングが鮮烈な印象を与える。


■アプリリア
2022年、大躍進を遂げたのがアプリリアだ。第3戦アルゼンチンGPでアレイシ・エスパルガロがアプリリアにとっても自身にとっても初めてのMotoGP優勝を果たし、シーズン終盤までチャンピオン争いを繰り広げてシーズンを盛り上げた。2023年も、マーベリック・ビニャーレスとのコンビは不変だ。
その一方、昨年は唯一の対象メーカーだったコンセッション(優遇措置)が今年は免除されることとなったのは懸念材料でもある。エンジンの年間使用基数やテスト制限、ワイルドカードの参戦数といった面での優遇措置がなくなることが、アプリリアにどれほどの影響を与えることとなるか注目だ。
2023年仕様のRS-GPは、ブラック基調のカラーリングを含めて大きな変更はないように見受けられるが、グランドエフェクト・フェアリングのほか、フロントタイヤの脇にもフェアリングを追加するなど、得意の空力性能にはさらに磨きが掛けられているようだ。


また、ヤマハYZR-M1の供給を受けて活動していたRNFレーシングが今年からアプリリア陣営に加入したのもトピック。昨年、サイバーセキュリティソリューションを開発するルーマニアの企業、クリプトデータが主要株主となり、2023年はクリプトデータ・アプリリアRNF・MotoGPチームとして参戦する。ライダーはレッドブルKTMファクトリー・レーシングからミゲール・オリベイラ、テック3からラウル・フェルナンデスが移籍。テストでの様子を見る限りでは、KTM RC16からアプリリアRS-GPへの乗り換えは順調に行っているようだ。なお、2023年の体制発表会とマシンカラーリングのお披露目は3月20日に予定されている。

■まとめ
21戦・42レースという前代未聞のシーズンになる2023年。順当にいけば、2月のセパンテストでも好調で、トップから0.080秒差となる2番手のタイムをマークしたバニャイアがチャンピオン争いの先頭に立つことだろう。クアルタラロやマルク・マルケスは、マシンの仕上がり次第といったところか。日本人としては、今年こそ中上に初表彰台を実現してほしいと強く願うばかりだ。