ステアリングホイールにはドライブモードの切り換えダイヤルが付いており、コンフォート、GT、スポーツ、コルサ、オフロードの各モードに切り換えることができる。デフォルトはGTだ。トロフェオはエアサスペンションを備えており、ライドハイトの調節が可能。ダンパーは減衰力可変タイプだ。

スポーツに切り換えると、ライドハイトは15mm下がってエアロモードとなり、アクティブエグゾーストバルブは常時オープン。エンジンブーストが最大値に設定され、EPS(電動パワーステアリング)の制御も変更される(手応えが強くなる)。オフロードはライドハイトが20mm高くなり、変速がマイルドに制御される。名称どおりでオフロード走行に適したモードだ。
トロフェオの真骨頂は英語でレースを意味するコルサだ。GTとモデナには設定のないトロフェオ専用のモードで、アクセルペダル感度およびレスポンスが最高レベルに設定され、変速がスポーツモードにも増して高速化される。また、トラクションコントロールの介入頻度が低下する。

センターの12.3インチタッチスクリーンでは“車両設定”のメニューを呼び出すことで、オートエントリー/イグジットサスペンションをオン/オフにすることが可能。停車時はライドハイトを低くすることで乗り降りを助ける機能だ。青空バックの写真は、この機能がオンになっているため、ライドハイトは低くなっている。

市街地を周囲の流れに合わせて走行している限り、高性能エンジンを積んだ高性能SUVに乗っている感覚は希薄だ。人によっては低周波のこもり音が気になるかもしれない。高速道路を走っても同様で、ずっと低周波のこもり音と付き合わされる。試乗時に「3気筒エンジンのトルク変動によるゴロゴロ音に似ている」とメモしたのだが、正解だった。
資料によれば、低負荷時は右側3気筒を気筒休止し、左バンクの3気筒のみで運転しているという。ゴロゴロしたこもり音はこれが原因だろう。減筒運転することで負荷が高くなり、トルク変動が大きくなる。常用域でそれが目立ちがちだ。V6ターボエンジンを搭載するトヨタのWECマシンはフルコースイエロー時に燃料消費をセーブするため減筒運転を行っているが、あれと同じだ。
スポーツモードに切り換えると常用回転数が高くなるのでこもり音は消え、すっきりした走りになる。燃費の差までは確認できなかったが、こもり音と付き合わされるGT、コンフォートモードでも燃費はあまり期待できないので、こもり音が気になるなら割り切ってスポーツモードを選択してもいいかもしれない。

コルサモードに切り換えたときの興奮を味わったかどうかで、『グレカーレ・トロフェオ』に帯する評価は変わると思う。できるなら、コルサを体感してからトロフェオを評価してほしい。
このモードを味わってこそのトロフェオである。ステアリングのダイヤルを回してモードを切り換えた途端、ラグジュアリーなSUVからスポーツカーへと印象が一変する。スポーツモードにも増して脚が引き締まり、ステアリングの手応えが増す。
ワインディングロードで次々にコーナーをクリアしていると、「これ本当にSUV?」と疑問に感じるほど、操作に対してクイックに反応し、気持ちいいほど鼻先が向きを変える。外側にふくらんでしまうのではないかという不安感とも無縁で、まるでゴーカート感覚だ。アップシフトした際には、変速のインフォメーションを伝えるかのように、コツッ、コツッとしたショックが入る。これがまた、気分を盛り上げる。
おもしろいのはエンジンサウンドの変化で、スポーツモードではボロボロとしたやんちゃなビート音を響かせるのだが、コルサモードでは澄んだ快音を響かせる。スポーティな走りをしているときは、後者のほうが感覚にマッチする。
『マセラティ・グレカーレ・トロフェオ』は日常で使い勝手のいいSUVでありがなら、コルサモードを選択した途端にキャラクターが一変。姿形は変わらないが、中身はスポーツカーになる。変化の激しいその二面性が大きな魅力だ。



