スタイリング面の要求により、ホイールベースが100mmも短くなっているのは、21世紀以降、最も醜悪な外見のクーペであるCV35/CV36スカイラインクーペに対するアンチテーゼなのだろう。
こうした社内抗争的な動きもまた、ニッサンのお家芸である。
とはいえ、モデル末期を迎えているZ34は完成度も高く、仕上がっている。これはニッサンが新型車開発が極めて少なく、リソースに余裕があることも一因となっているだろう。

トヨタ86に乗ると、いつもZが恋しくなる。低回転域からしっかりとトルクが出て、反応してくれるエンジンだけとっても、86とZの差はかなり大きい。ニッサンV6の伝統なのかシャープさが薄く、力任せな感触ではあるが、エンジンをコントロールするNAの楽しさは味わえる。
そんなエンジンには7速ATのほうがマッチングも良く、ストレスも少ない。しかし、6速MTのフィーリングも上々で、いざ買うとなるとなかなか悩むことになるだろう。
コンパクトなキャビンだが、少なくともドライビングする空間としては余裕がある。86のほうがルーフが低く、タイトで息苦しい。高さはないが、ハッチバックなので荷物も一応は積みやすい。日常的に使えるスポーツカーと言っていいだろう。
乗り心地は、19インチタイヤ装着状態でも厳しくない。デコボコの路面では強いスタビライザーの影響で揺すられるものの、それ以外はフラットに近い。
ボディ剛性を高めた成果だが、それを部分剛性で実現したためかロードノイズは大きめだ。一方で、エンジン音はセーブされており、それほど大きな音が侵入することはない。

個人的には、エアロを外したNISMOの6速MTをベストに推す。あのエアロはアイディンティティなのかもしれないが、子供っぽくて、クルマの質感を損なっている。ノートやマーチとは違う設定が必要だろう。
スポーツカーは、いつも一緒に行動したい、クルマ好きにとってのベストフレンドである。ドンチャン騒ぎしたり、カラオケで熱唱したり、海を見ながらボーッとしたり、目的なく遠くまで行ってみたり⋯⋯。そんな親友的な存在=スポーツカーに、Z34はかなり近づいているように思える。

そのZ34にも生産終了のウワサがある。しかし、これを機にスポーツカーとして原理的なモデルへとモデルチェンジしてもらいたいものだ。
電動化や自動化はスペースや重量に余裕のある他のクルマに任せて、そういう時代だからこそ求められる、シンプルなスポーツカーに生まれ変わってほしい。
■ ニッサン フェアレディZ Version ST 主要諸元
車体 | |
---|---|
車名型式 | ニッサン CBA-Z34 |
全長×全幅×全高 | 4246×1845×1315mm |
ホイールベース | 2550mm |
トレッド 前/後 | 1540/1565mm |
最低地上高 | 120mm |
車両重量 | 1540kg |
乗車定員 | 2名 |
駆動方式 | 2WD(後輪駆動) |
トランスミッション | 6速MT/7速AT |
ステアリングギヤ形式 | ラック&ピニオン式 |
サスペンション前/後 | 独立懸架ダブルウイッシュボーン式/独立懸架マルチリンク式 |
ブレーキ 前/後 | ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク |
タイヤサイズ 前・後 | 245/40R19・275/35R19 |
エンジン | |
型式 | VQ37VHR |
形式 | V型6気筒DOHC |
排気量 | 3696cc |
内径×行程 | 95.5×86.0mm |
圧縮比 | 11.0 |
最高出力 | 247kW(336ps)/7000rpm |
最大トルク | 365Nm(37.2kgm)/5200rpm |
使用燃料 | 無鉛プレミアム |
タンク容量 | 72L |
auto sport 2019年5月24日号 No.1507より転載