ロッキー/ライズは「5ナンバーサイズのSUVである」というだけでも価値がある。コンパクトSUVは世界的に人気があるので日本でも選択肢は多いが、国際商品があるがゆえに、日本特有の5ナンバー枠におさまる例はじつは数えるほどしかない。数ある5ナンバーの条件でも、とくに“全幅1.7m未満”という部分が、商品性や安全性の面で海外で売るのは難しいのだ。
実際、5ナンバーSUVはこれまで、ジムニー シエラ、イグニス、クロスビーを並べるスズキの独壇場だった。ロッキー/ライズはスズキの3台よりは少しだけ立派で見栄えもするのに、5ナンバー幅に加えて全長も4m以下。日本のだれもが「小さい」と直感するサイズに落とし込まれている。
ダイハツの担当技術者によると、ロッキー/ライズの開発テーマは「小さくて、広くて、カッコエエ」だったそうだ。大阪拠点のダイハツがいうとおり“カッコエエ”かどうかは個人の主観に任せるにしても、エンジンルームが最小化されたプラットフォームに四角四面のボディを載せたパッケージレイアウトは、なるほど素直に小さくて広い。
さらに前席間には立派なセンターコンソールが鎮座しているが、これは全幅の狭い軽自動車ではありえないデザインで、これだけで「あえて小型車を買ううれしさ」になりえる。
トランクやシートアレンジにも特別なギミックがなくとも、本来はスペアタイヤ用の空間にまでカーペットを張りめぐらせて、それこそ「ゴルフボール1個でも余計に積んでほしい」というバカ正直(失礼)な態度には素直に共感がもてる。

■ライバルのスズキ・クロスビーと比較検証「4WD車に差が出る」
前記のスズキでも真正面からライバルとなるのはクロスビーである。両車は技術的にもよく似ており、FF車ではクロスビーとロッキー/ライズそれぞれに一長一短がある。ただ、4WD車の走りについてはロッキー/ライズが一歩リードする。
というのも、クロスビーの4WDのリヤサスペンションは簡素なリジッド式で、4WD機構も単純なビスカスカップリング式だからだ。
クロスビーではリヤサスが半独立トーションビーム式になるFFに対して4WDではリヤの高速安定感がわずかに劣っており、またビスカス4WDは主駆動輪(クロスビーの場合は前輪)がはっきり空転して初めて4WDになる。この種の4WDはスタック防止には役立つが、完全に滑り出す以前の安心感にはほとんど寄与しない。

対してロッキー/ライズのリヤサスペンションはFFも4WDも同じ半独立トーションビームで、4WDでも高速安定性が見劣りすることがない。しかも、その4WD機構は「トヨタRAV4のノウハウが伝授された」ともウワサされる電子制御カップリング式。基本FFで走るのはクロスビーと同様だが、発進や登り坂、滑りやすい路面では、実際にスリップする以前に先回りして4WDになる。
いずれにしても、200万円前後で買えて、これだけあっけらかんと明るいデザインで、実用的なのに「生活臭くない」クルマは貴重だ。アラフィフの筆者が若いころはそういうクルマがたくさんあったものだが、安全性や環境性能、日本市場の縮小など、1台あたりのコストがかさむいっぽうの現代には、こういうクルマは「ありそうでなかった」のが現実である。
ロッキー/ライズは発売1カ月時点で月販目標の8倍(ロッキーが1万5000台、ライズが3万2000台)を受注したという。この絶妙な商品企画なら、売れるのも分かる。

■ダイハツ・ロッキー『G』主要諸元
車体 | |
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全長×全幅×全高 | 3995mm×1695mm×1620mm |
ホイールベース | 2525mm |
トレッド 前/後 | 1475mm/1470mm |
車両重量 | 980kg |
乗車定員 | 5名 |
駆動方式 | FF |
トランスミッション | CVT |
サスペンション前/後 | マクファーソンストラット/トーションビーム |
ブレーキ 前/後 | ベンチレーテッドディスク/リーディングトレーリング |
タイヤサイズ | 195/60R17 |
エンジン種類 | 直列3気筒DOHCターボ |
総排気量 | 996cc |
最高出力 | 72kW(98ps)/6000rpm |
最大トルク | 140Nm(14.3kgm)/2400〜4000rpm |
使用燃/タンク容量 | レギュラーガソリン/36L |
車両本体価格 | 200万2000円 |
■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano
1968年生まれ。独自の視点と執筆力で、多数の自動車雑誌、週刊誌、WEBに寄稿するアラフィフのモータージャーナリスト。国産の新型車の取材現場で必ず見かける貪欲さも武器。