そんなBMWはいっぽうで、可変レシオステアリングやランフラットタイヤなど、乗り味に多大な影響を与える新技術を意外なほど躊躇なく実用化してきたメーカーでもある。
そう考えると、FF化への慎重姿勢も、BMWが保守的だったというより「BMWはFRであるべし!」という熱狂的なファンの声や市場環境がそれを許さなかったから……と考えるほうが自然かもしれない。BMWはライバルとなるメルセデスやアウディと比較しても、厳密で繊細にコントロールされたブランドイメージで売ってきたからだ。
■1シリーズの実用グレード『118i』に試乗。BMWのFF化にひと言
というわけで、今回試乗した『118i』は、新型1シリーズのなかでも売れ筋の実用グレードである。さすがMINIなどでFF経験を積んできただけに、新型1シリーズはBMW初の背低FF車とはいえ、それなりによくできている。
それはあえていえば俊敏系でスポーティな操縦性が特徴だが、乗り心地もそこそこ良く、ステアリングは適度に穏やか。リヤタイヤをがっちりと安定させているので必要以上に曲がるわけではない。内外装もごくごく真っ当なデザインと仕立て品質で、質感も冷静に見て競合車に大きく負けていない。
そしてなにより、FR時代はお世辞にも広いとはいえなかった後席やトランクが、数あるライバルにまるで引けを取らない広さとなった点は「BMWはなんとなくカッコイイから」といった軽い理由で1シリーズを選ぶライトな購買層には重要な商品力である。

そうした入門商品として、実用的で低コストなFF化は合理的な選択ではある。よって新型1シリーズがFFになったことに個人的な異論はないが、乗っていて「この瞬間がBMWだね!」と膝を叩きたくなる場面がまるでないところは、けっして安くない高級コンパクトカーとして、新型1シリーズの決定的に物足りないポイントである。
同じBMW製FFでもMINIは対照的だ。極端なほどのゴーカートフィールで好き嫌いは分かれるだろうが、乗り味にも独自性が際立っている。また、BMWよりひと足先にFFを手がけている宿敵メルセデスのAクラスも、いかにもスポーツカー的な味わいに割り切っていて魅力が分かりやすい。
今回の『118i』が搭載する1.5リッター3気筒ターボも、性能にはまるで不足ない。ただ、その独特のビート感はゴーカートみたいクルクル曲がるMINIには似合っているが、それより1ランク上の高級感を狙っていると思しき1シリーズでは、ちょっと騒々しい。

BMWは伝統的に、それこそツメの先まで繊細に統一された“らしい味”で売ってきたブランドである。新型1シリーズはまだ経験の浅いFFで他社との差別化を考えすぎたからか、逆にどこのクルマかよく分かりにくくなっている……といえなくもない。
まあ、BMWのことだから新型1シリーズも短いスパンで熟成して、遠からず「BMWのFFはこうだ!」みたいな商品力を身に着けるはずである……と、新型1シリーズをどうしても好意的にとらえてしまう理由は、この『118i』が同クラスの他社では見られないほど立派で、16インチホイールにギリギリいっぱいの大径ディスクブレーキを備えているからだ。
こういう生真面目さもまた、マニアの心をつかんで離さないBMWらしさなのだろう。


■BMW 118i 諸元
車体 | |
---|---|
全長×全幅×全高 | 4335mm×1800mm×1465mm |
ホイールベース | 2670mm |
車両重量 | 1390kg |
乗車定員 | 5名 |
駆動方式 | FF |
トランスミッション | 7速DCT |
タイヤサイズ | 205/55R16 |
エンジン種類 | 直列3気筒DOHCターボ |
総排気量 | 1499cc |
最高出力 | 103kW(140ps)/4600-6500rpm |
最大トルク | 220Nm(22.4kgm)/1480-4200rpm |
使用燃料/タンク容量 | ハイオク/50L |
車両本体価格 | 334万円 |
■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano
1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず(?)見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り。