「シンプルに立ち返ることが、ファン拡大の秘策」モータースポーツの長所と弱点 後編【大谷達也のモータースポーツ時評】
では、モータースポーツは人気がないのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。F1日本グランプリには決勝日だけで7~8万人のファンが詰めかけますが、Jリーグが開催されるスタジアムで7万人を収容できるのは日産スタジアムだけ。
野球場では甲子園球場が最大ですが、その数は5万人に達しません。つまり、モータースポーツの人気は、決して低くないのです。
多くの人気を獲得するうえで不利な条件が多いモータースポーツがいまも高い人気を誇っているのは、「モータースポーツがほかのスポーツにない魅力を備えているから」といえます。
具体例を挙げましょう。まず、スポーツとしての要素とテクノロジーの要素がこれほど高い次元でバランスされているスポーツはほかにありません。スピード感も、モータースポーツに優る競技はないでしょう。人によっては音や匂いに惹かれるという方もいるはずです。こうした要素が、モータースポーツに内在する「不利な条件」を補って余りある魅力を生み出しているのです。
とはいえ、F1を含め世界中の多くのモータースポーツで人気の低迷が囁かれています。私自身は、30年前にはなかったインターネットがこれだけ普及しているのだから、娯楽としてのモータースポーツのシェアが一定数失われるのは仕方のないことだと思っていますが、一方でモータースポーツの人気を拡大する余地は残されているとも考えます。
この問題には世界中の専門家が長年取り組んでいるのですから、私がとやかく口を差し挟むべきではないのかもしれません。けれども、モータースポーツで実施されるさまざまな施策のなかには、私が挙げたシンプルな原則を満たしていないものも多く見受けられます。
競技の仕組みが複雑なためシンプルな解決策は見いだしにくいのかもしれませんが、複雑化は複雑化を呼び、大多数のファンを遠ざける危険性を秘めています。いまこそ基本に立ち返り、シンプルな施策でモータースポーツの魅力を掘り起こす努力が求められているような気がします。