更新日: 2020.07.10 19:33
出会った瞬間に恋に落ちる? 激戦区の輸入コンパクトSUV界で抜群の可愛らしさを発揮/フィアット500X実践試乗レポート
2019年春のマイナーチェンジでは内外装のアップデートも実施されている。外観も主要大物部品の変更はごくわずかなのだが、灯火類がことごとくLED化されたことで、いかにも今っぽい雰囲気になった。
また、内装の樹脂シボも以前よりツヤが落ち着いた素材になったようで、わずかながらも高級感を増した。
ただ、マイナーチェンジの主眼はエンジンだ。日本でも販売されるガソリンが“ファイアフライ”という愛称の新世代エンジンに切り替えられたのだ。
日本未導入のディーゼルも最新世代の“マルチジェット”に集約された。同時に4WDが選べなくなったが、これは日本仕様にかぎったことではなく、今は欧州でもFFのみだ(兄弟車のレネゲードには今も4WDがある)。
新世代ファイアフライエンジンは、吸気バルブのリフト量と開閉タイミングを自在にコントロール(してスロットルを制御)する自慢の独自メカニズムの最新版“マルチエア3”を使う。
そのうえで、0.33リッターのシリンダーレシオをモジュール化した設計となっており、3気筒(1リッター)ターボと4気筒(1.3リッター強)ターボを使い分ける。日本仕様の500Xは4気筒のみなのだが、欧州では3気筒の500Xもある。
この4気筒ファイアフライは従来より排気量は縮小(マイナーチェンジ前のマルチエアは1.4リッターターボ)したが、ピーク性能は逆に向上しており、絶対的な動力性能に不足はない。それに組み合わせられる6速ツインクラッチ変速機も、それ単体の作動感は以前より滑らかになった感はある。
ただ、最新の過給エンジンとしては低速トルクが意外に薄く、ある回転数からグイっとトルクが立ち上がる印象で、低速で加減速を繰り返すような都市部の走りでは、少しばかりたどたどしいのは否めない。
こういうエンジン特性には柔軟性のあるトルクコンバーターATのほうがマッチングがいいケースが多く、ツインクラッチ特有のキレの良さが逆効果だったりもするのだ。
こうした走るシーンを選びたがるクセはシャシー方面にも少しある。市街地をゆっくりとしたスピードで這いずるような場面では、500Xの乗り心地はけっこう明確に硬い。
フロアを中心としたボディ剛性感は印象的なほど高いので、好事家のみなさんなら不快感は抱かないと思う。数あるなかでももっとも立派で大人っぽく、家族づかいも想定したフィアット500……という位置づけを考えると、もう少し快適であってほしいとは思う。
そのかわり、ワインデングモードに乗り入れて、シフトレバーをマニュアルモードにしてエンジンを積極的に高回転まで引っ張り、ブレーキやステアリングを積極的に操るような走り方をすると、パワートレインやシャシーに明確に血が通い出すような感覚があるのが面白い。
そうやって、クルマにカツを入れるような運転を心がけると、500Xの嬉々として回るエンジンはなんとも心地よく、それを引き出すツインクラッチのキレ味もありがたい。そして、スピードが増すほど乗り心地が良くフットワークも活きるというものだ。
■フィアット500X CROSS諸元
車体 | |
---|---|
全長×全幅×全高 | 4280mm×1795mm×1610mm |
ホイールベース | 2570mm |
車両重量 | 1440kg |
乗車定員 | 5名 |
駆動方式 | FF |
トランスミッション | 6速DCT |
タイヤサイズ | 215/55R17 |
エンジン種類 | 直列4気筒インタークーラー付ターボ |
総排気量 | 1331cc |
最高出力 | 111kW(151ps)/5500rpm |
最大トルク | 270Nm(27.5kgm)/1850rpm |
使用燃料/タンク容量 | プレミアムガソリン/48L |
車両本体価格 | 341万円 |
■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano
1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず?見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り。