■ブランド哲学をしっかりと継承した新生EV、『Audi e-tron GT』
そしてこのたび、第二弾として上陸したのがエレクトリック4ドアグランツーリスモの『Audi e-tron GT quattro』と『Audi RS e-tron GT』。第一弾のSUV版は、内燃機関を搭載するモデルのプラットフォームを共有していたが、『Audi e-tron GT』は電気自動車専用設計が施された第一弾となる。

フォルクスワーゲングループにおいては、ポルシェ初のEVスポーツモデルとして話題となった『Taycan(タイカン)』と技術的な要素を共有したモデルとして話題を呼んでいる。ベースの構造や技術が共有されるとなれば、「ボディのフォルムやコックピットなど、どこか同じ雰囲気を漂わせる部分があるのではないか?」と想像していた。
ところが、今回の試乗で 『Audi RS e-tron GT』と初対面したところ、Audiのブランド観が見事に表現されている様に驚かされた。内燃機関を搭載したモデルとは異なる、どこか妖しさを漂わせるスタイリング。ボディは全長4990mm、全幅1965mmと存在感のある様相で、ハイパフォーマンスモデルとなるRS仕様の全高はわずか1395mmだ。
低くワイドに構えたスタンスと、93kWhの大容量のバッテリーを床下に敷き詰めた低重心パッケージが運動能力の高さを予感させる。Audiの顔であるシングルフレームグリルは、内燃機関のモデルと比べて空気の採り入れ口が狭く、中央部はパネルで覆われていて、新時代のパワーユニットを搭載したクルマであることを象徴しているようだ。

ボディを照らす光が繊細に描かれた面構成をドラマティックに映し出すあたりがAudiらしい表情といえるが、そこにCd値=0.24という空気抵抗の少なさを両立しているあたりは、見事なお手前。
宝石のように光るダイナミックターンシグナル付きのLEDヘッドライト、頼もしい後ろ姿を演出するテールランプは三次元の造形で描かれており、印象的な後ろ姿で魅了する。それでいて、4ドア5シーターのパッケージで仕立てられている点は、実用性とパフォーマンスを併せ持つAudiのRSモデルの伝統ともいえる部分だ。
着座位置が低いリヤシートは、大人が余裕をもって座れる居住性を確保しているし、開口部が広いテールゲートは荷物を積み降ろしやすく、リヤシートは3分割可倒式でアレンジできるので長尺物も積める。

運転席に腰を落とすと、ホールド性の高いスポーツシートが心地良く身体を受けとめてくれる。小柄なドライバーであってもシートやステアリングの調整幅が広く、最適な運転姿勢をとりやすい。遅れのない正確な操作に結びつきそうだ。

RS仕様には3チャンバー式のエアサスペンションが採用されているが、ごく低速の動き出しから、タイヤが路面の凹凸を丁寧に受けとめながら進んでいってくれる。その感触ときたら、21インチタイヤを履いているにもかかわらず優しい足どりで、快適性もすごぶる高い。

その後もクルマの動きを注意深く探っていると、荒れた路面やうねりを乗り越えるような場面で姿勢の収まりがいいのに気がつく。また、エンジンを搭載していないEVは音もなくシームレスな走りが特徴といえるはずだが、アクセルを踏み込むとメカニカルな音とも、風を切り裂く音とも捉えられる独特な走行音がスピーカーから聞こえてくる。音の演出とはいえ、不思議とクルマを走らせている実感が強まるのが面白い。
『Audi RS e-tron GT』のパワーユニットに注目してみると、車体前後のアクスルに各1基、合計2基の駆動用モーターを搭載した4輪駆動(quattro)になっている。フロントモーターは238ps、RSモデル専用に強化されたリヤモーターは456psを発揮する。
通常走行時は4輪駆動で走るが、走行モードを“エフィシエンシー”にすると、前輪の駆動を優先させて電力消費を抑えることもできる。RSモデルの加速を確かめてみるため、走行モードを“ダイナミック”にしてアクセルペダルを深く踏み込むと、ホイールスピンしそうなほどダイナミックなトルクが瞬時に漲ってきたが、すぐさま車体は安定した姿勢に躾けられ、ドライバーが進もうとする方向にトラクションを発揮していこうとする。
Audi自慢のquattroシステムは、機械式と比較して、制御のスピードは5倍の速さに高まっているという。エレクトリック時代のquattroは新次元の領域に入ったことを示している。

運転席からの視界は、想像していたよりも開放的で、大きいはずの車両の感覚が掴みやすい。何より、試乗車に搭載されていたオールホイールステアリング(後輪操舵)のおかげで、高速域の車線変更で安定した姿勢変化を見せるほか、低速走行時は最小回転半径5.2mと、ボディサイズからは想像もつかない小回り性を発揮してくれる。
一般道と高速走行、どちらの走行環境でもストレスを与えず、常に手足のように扱えることがクルマの挙動を手の内に収めている安心感を与えてくれる。理論派でミステリアスに映っていたエレクトリックカーは、私の予想をいい意味で裏切り、実際はどこか乗り手を包みこむ温かみを与えてくれた。
圧倒的なパフォーマンスとサスティナビリティが融合した『Audi RS e-tron GT』。今後、私たちにどんな未来を見せてくれるのか。Audiの今後の方向性を示す存在として、大いにワクワクさせられる一台だ。

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■Fujitomo’s favorite Point
No.1 デザイン性と機能性の高さを両立している足元

今回試乗した『Audi RS e-tron GT』は、空力デザインが施された21インチホイールを装着していました。ブレーキシステムは、赤く塗られた10ピストンキャリパー! 真っ赤なボディに真っ赤なキャリパー、私好みの組み合わせです。ディスクに施されたタングステンカーバイドコーティングは錆を抑制する効果もあって、機能面も満点です。減速エネルギーを回生する機構を備えているため、エンジン車と比べてブレーキパッドやディスクの摩耗が少ないメリットもあります。
No.2 穴が小さい(!)フロントグリル

Audiのトレードマークともいえる六角形のシングルフレームグリルは、上部がパネルで覆われた構造が電動化時代のモデルであることを主張しています。内燃機関のモデルとは異なり、空気の取り入れ口は必要最小限に狭められていて、特徴的なフロントフェイスを構成しています。この顔立ち、なかなか痺れます♪
No.3 スポーティな走りが楽しめる特等席

オプションとなるRSデザインパッケージレッド仕立てのインテリア。運転席に乗り込むと、ホールド性の高いスポーツシートとレッドステッチが施されたフラットボトムのステアリングが装着されています。ステアリングは、体格に応じて上下前後に調整可能で最適な運転姿勢がとりやすいほか、乗り降りの際に身体に引っかかりにくいです。“究極のドライブ”を味わえる環境作りに脱帽です。