ダートコースで筆者を待ち構えていたのは、GRヤリスRZ ダート仕様車とGRカローラ“モリゾウエディション”(プロトタイプ)だった。それぞれ、ダンパーやコイルスプリング、前後LSD、クラッチなどが変更され、ダート仕様車となっている。クラッチと前後LSDはGRパーツだ。


同乗走行によってGRカローラ“モリゾウエディション”の真価の一端を披露してくれた全日本ラリーチャンピオンの勝田範彦選手は、「まだ詰め切れていない部分はあるが、初心者レベルの乗りやすい仕様にしてある」と説明してくれた。
範彦選手のように、コーナーの入口から鼻先をインに向け、お尻を振り出しつつも、弧を描くラインをトレースするような走りを再現することは(当然ながら)できなかった。だが、クルマとの対話を存分に楽しむことができた。
砂を必死に搔いているときは気づかなかったが、後から思えば、リヤの駆動力を頼りにクルマをコントロールしようとしていた。ちょっと乱暴にアクセルペダルを踏み込んでも動きに破綻がないし、踏む込んだときのエンジン〜駆動系のレスポンスがいいので、修正が容易だ(外から見たらボロボロだったろうが)。
GRヤリスは、キビキビとした身のこなしの軽い動きが印象的だし、それに比べるとGRカローラのほうは動きに落ち着きがある。長いホイールベースの効果が大きいが、だからといって曲がりづらいわけではない。範彦選手の言葉を借りれば、その理由は「ダートを走る場合は車重がトラクションにつながるため、曲がりやすさを助けている部分もある」ということになる。


■ダートもサーキットでもGRヤリスは軽快、GRカローラは安定志向
ダートでは「GRカローラ“モリゾウエディション”、すげーな」という印象を受けたが、サーキットでの対峙でその印象を一段と強くすることになる。試乗順はGRヤリス RZ “High Performance”〜GRカローラRZ(プロトタイプ)〜GRカローラ・モリゾウエディション(プロトタイプ)で、運良く、GRシリーズの進化の過程を時間軸で追う格好になった。




GRヤリスもGRカローラも、シフトレバーの近くに4WDモードセレクトスイッチがあり、ダイヤル操作でNORMALとSPORTの切り換え、ボタンをプッシュすることでTRACKモードへの切り換えが可能だ。
NORMALモードの前後駆動力配分は前輪60:後輪40、SPORTモードは前輪30:後輪70、TRACKモードは前輪50:後輪50となる。
たっぷり周回することができたので、モードを切り換えながら走行した。個人的な好みでいえば、TRACKモードが一番気持ち良かった。サーキットを意味するTRACKを冠したモードなのだから当然なのかもしれない。
NORMALではコーナーの立ち上がりで外に膨らんでいくような動きを感じるし、同じ場面でSPORTではお尻が外に出ようとする素振りを見せる。筆者のようなサーキット初心者には、制動時も旋回立ち上がり時もとことん安定したTRACKが最適だ。
お尻を振り回し気味にして楽しみたい向きには、SPORTがいいかもしれない。どのモードを選択しても突如として破綻する不安がないのは共通している。駆動時にレスポンス良く4輪に駆動力を分配する4WDシステム=GR-FOURの恩恵だ。
サーキットでもダートと同様、GRヤリスRZ “High Performance”はキビキビとした軽い身のこなしが印象的だった。見た目の印象から受けるとおりで、GRカローラRZ(プロトタイプ)はGRヤリスとの対比で言えば安定志向。だが、充分にハイパフォーマンスで、素の状態でサーキットを苦もなく走れてしまう5ドア5シーターだ。
GRカローラ“モリゾウエディション”(プロトタイプ)は、まったくの別物である。リヤシートを取り払って軽量化を図っているが、手を入れたのはそれだけでなく、構造用接着剤の塗布範囲を増やし、ボディ補強ブレースを追加した。開発陣が重視する“体幹”をさらに鍛えるためだ。

そもそも、GRカローラはベースとなったカローラスポーツに対し、スポット溶接の打点を349点追加し、構造用接着材の塗布範囲を2748mmも増やしている。大きな剛性アップを果たしたうえに、輪を掛けて手を入れたのがモリゾウエディションだ(構造用接着材の塗布範囲は、RZ比で3334mmも増やしている!)。
『お客さまを魅了する野性味』を追求したというだけあり、エンジンを始動した瞬間からただ者ではないムードを漂わせる。野太い排気音はまるで、腹を空かせた猛獣が喉を鳴らしているようだ。
RZに対して30Nm引き上げた最大トルクがスペック表の表記だけに留まっていないのもモリゾウエディションの魅力。ピットレーンから本コースに流入すべくアクセルペダルをひと踏みした瞬間に、背中をシートに押し付ける力強さで“別物”であることを実感させる(ダートコースでもアクセルを踏み込むたびに感激していた)。
ファイナルギヤのローギアード化と1〜3速のクロスレシオ化も低〜中速域の頼もしさにつながっているのだろう。野性味はあるが、暴れ馬では決してなく、ドライバーの手綱さばきに柔順なのは美点で、同じように運転しているつもりなのに、モリゾウエディションは旋回スピードも直線での到達スピードも明らかに前に乗った2台より速い。「気持ちがたかぶり、ずっと走らせていたくなる走りの味を実現した」というが、まさにそのとおり。オーナーを虜にすること間違いなしだ。