フラガには注目して眺めなければなるまいと気持ちを入れ替えて翌日からの競技を眺めることにしたが、ぼくが覚悟するまでもなくフラガはモナコでも大活躍してなんと総合優勝を遂げ、ワールドチャンピオンになってしまった。あのFIAが認定する正真正銘の「FIAワールドチャンピオン」である。当然ながら12月にロシア・サンクトペテルブルクで行われるFIAの年間表彰式に招かれ、F1やWRCやWECのワールドチャンピオンたちと肩を並べて表彰を受ける。

 王座を獲得したフラガは全身で喜びを表現し、観客や取材のカメラに囲まれた。その姿を眺めていたフラガの父上はうっすらと目に涙を浮かべていた。ぼくは自分の目前で何が起きているのか、うまく理解しきれずにいた。モナコから帰ってこの原稿を書いている今に及んでもまだしっくりと飲み込むことができないでいる。

 これまでもグランツーリスモのプレイヤーからは現実のレーシングドライバーが生まれている。たとえばルーカス・オルドネス。たとえばヤン・マーデンボロー。だがぼくはあくまでもレーシングドライバーが一方でグランツーリスモをプレイしていたに過ぎないのだ、と決めつけていた。以前レーシングシミュレータの取材をしたとき、「シミュレータはまだ現実と食い違う面が多く、シミュレータ独特のテクニックが存在するためレーシングドライバーがゲーマーに負けることは珍しくない」と聞いた。それを根拠にぼくは現実は現実、仮想は仮想と区別をしてきたのである。

 しかし350万人のゲームユーザーからレーシングドライバーが勝ち抜いて世界一になったとなると、仮想世界は現実世界の添え物、代用品だという位置づけは考え直さなければならないのではないか。敢えてグランツーリスモSPORTをゲームと呼ぶならば、とうとう「レーシングドライバーが現実のテクニックで勝てるゲームになった」と言うべきなのではないか。グランツーリスモSPORTのレースは「仮想」どころではなくもはや「現実」なのではあるまいか。

 ちなみにモナコの現場に設営されたスペイン向けコメンタリーブースでレースを解説していたのは、他ならぬオルドネスだった。何が仮想で何が現実なのやら、モナコから帰ってきても、ぼくの気持ちはグルグルとさまよったままだ。どうやらぼくがぼんやりと暮らしている間に世の中は着実に進歩して、ぼくの想像もしていなかった世界が生まれ広がろうとしているらしい。

 実はモナコでワールドファイナルが開催されている週末、鈴鹿サーキットではサウンド・オブ・エンジン、マカオではマカオGPが開催されていた。言ってみれば鈴鹿では過去、マカオでは現在のモータースポーツが繰り広げられていたのだ。ぼくは当初、鈴鹿へ出かけて過去に浸るつもりでいた。しかし急きょ予定を変更して出かけたモナコで、ぼくは未来のモータースポーツを見せつけられることになった。来年は開幕から「FIAグランツーリスモ・チャンピオンシップ」を意識せざるをえなくなったようだ。

 考えてみればぼく自身が、サーキットの実走行をグランツーリスモSPORTで置き換えようと自然に発想していたではないか。未来はぼくの古ぼけた感覚にも知らず知らずのうちにジワジワと浸透し始めていたのかも知れない。

 なんでも、将来的にはチャンピオンシップにシニアクラスを設けようかという話もあるらしいので、このシーズンオフは、真剣に走り込みをしてやろうと改めて思った。当然、現実の「代用品」としてではなく「現実」として取り組むつもりだ。ひょっとしたらこのぼくだって、この年齢にして世界を舞台に闘えるようになるかもしれないではないか。

2018年FIA公認グランツーリスモ ワールドファイナル
ワールドファイナルの会場にはルイス・ハミルトンもグランツーリスモの生みの親である山内一典氏とともに壇上に上がった。

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