氷上からサーキットへ。フィギュアスケーター無良崇人が86/BRZで念願のレースデビュー
今年のTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Raceは3つのクラスがあり、無良がエントリーしているのはビギナー向けのクラブマンシリーズ・オープンクラス。上級者クラスと混走したレース前日17日の練習走行では、「プロの方に後ろからハイビームでパッシングされてヤバイなって思いました」「(マシンがスライドして)斜めになりながら考えられない速度でコーナーを立ち上がっていく他のクラスのクルマの挙動に度肝を抜かれた」と、コース上で“本物”を体感。
しかし、「無良さんは理解力が高く、学んだものを吸収するスピードがとても速いですね」と、所属チーム、茨城ワクドキクラブの平野拓郎氏は、世界を舞台に戦ってきた一流のアスリートの高い能力を感じていた。
18日の午前に行われた公式予選は、「アタックしていた2回とも馬の背でアンダーが出てしまって、タイムが伸びなかったのが悔しい」と全24台中23番手で通過。
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決勝ヒート1、シグナルがブラックアウトになった瞬間、「えっ、これもう始まるの? という感じ」でスタートを切り、「前半は前のクルマに食らいついていけるペースだったけど、後半はタイヤの内圧が上がってリヤがまったくグリップしない状態で苦労した。でも、レースをしたんだなっていう実感、達成感はあります」と1台クラッシュした車両もあり22位でフィニッシュ。「スタート前には緊張で心臓が飛び出るかと思いました」と本音を漏らした。
今回のラウンドは決勝が2ヒート制で開催されるため、ヒート1の結果である22位が翌19日の決勝ヒート2スタート順位となる。
「僕たちの競技(フィギュアスケート)は朝、公式練習をやってから本番になりますが、(19日のヒート2は)事前の練習走行のセッションもなくぶっつけ本番なので、技量を試されてるいる気がします」
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そのヒート2では、スタート後に1ポジション落として、その後順位を取り戻すという展開になったが、これについては「抜いたり抜かれたりをやってみたいところもあったので、いったん先へ行ってもらって、“抜く”というのを味わわせていただきました」「(昨日から)セッティングを変えたらリヤも流れずに、タイヤもわりと最後まで余裕があった」と、2日連続のレースとはいえ、とてもこれがデビューの週末とは思えないほどの落ち着きぶり。
1台コースアウトした車両があったため、ヒート2は21位でチェッカー。2ヒートの総合順位は21位となり、記念すべきデビューレースで無事に完走を果たした。
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「(フィギュアスケートの)試合とどっちが緊張するかと聞かれると、フィギュアの方が緊張していない感じはあります。ただ“ヒリヒリするような感覚”をひさびさに味わった気がしますね」と、無良からは、勝負の世界に身を置くことが好きなのだと思わせるコメントが聞かれた。
レースをふり返ってみて、「昨日(決勝ヒート1)はけっこう長いなと思いましたけど、今日(決勝ヒート2)はあっという間でした。グリッドについてスタートの瞬間を待つドキドキ感は、これから経験すればするほど楽しくなっていくのかなと思います。今回は予選落ちがないレースだったので、決勝を走ることができましたが、今後、(参加台数が多数で)予選落ちがあるレースに参加したときに、しっかりと決勝に残れるよう、技術的な部分を磨いていけたらと思っています」と抱負を語った。
そして、「これを機にフィギュアスケートファンがモータースポーツに興味を持ってくれるきっかけになればいいなと思いますし、その逆にモータースポーツファンもフィギュアスケートに興味を持ってもらうきっかけになれば……そういう部分で自分なりにひと役買えたらいいなと考えていますので、今後もできる限り走り続けたいと思っています」と付け加えた。
フィギュアスケートのファンにとっては、今回のレースデビューで、もう一度、“無良選手”と呼べるのが嬉しいのだそうだ。レーシングドライバー無良崇人の今後の活躍に期待したい。
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◆無良崇人(むら たかひと)
1991年2月11日、千葉県生まれ、28歳。2014年、四大陸選手権優勝。全日本フィギュアスケート選手権には、05~17年まで13年連続出場(3位5回)。日本代表として世界選手権に3回出場。ISU GPシリーズ、12年エリック・ボンパール杯優勝。14年スケートカナダ優勝。18年3月、現役引退を発表しプロフィギュアスケーターに転身。現在はアイスショーやフィギュアスケート解説者として活躍中。昨夏の「艦これ 鎮守府“氷”祭りin幕張特設泊地-氷上の観艦式-」に出演以降、“無良提督”の愛称でも親しまれている。