全日本F3選手権:2戦連続抗議→車両規則違反失格の異常事態。いま、シリーズに何が起きているのか?
■車両規定はFIAが定めたルールか、そうではないのか?
異例とも言える、2戦連続の失格処分。しかもこの結果により、B-Max Racing Team with motoparkは第10戦でフェネストラズの順位がひとつ上がり2位に。また第11戦では、エナム・アーメドが初優勝。またフェネストラズも6位で1ポイントを得ている。チャンピオンを争うフェネストラズのための、意図的な抗議だったのだろうか。
抗議を行った#11=B-Max Racing Team with motoparkは、2018年のマカオGPでB-Max Racing Teamと、ヨーロッパのジュニアフォーミュラの有力チームであるモトパークの間で協力関係が締結され、今季から全日本スーパーフォーミュラ選手権と全日本F3選手権に参戦しているチーム。その代表であり、ドライバーDRAGONとして自らもレースに参戦している組田龍司代表に、抗議の理由を聞いた。
「抗議の内容としては、モトパークと我々が組んでレースをやっているなかで、モトパークのテクニカルスタッフが『日本ではこのパーツは使っていいのか?』と言ってきたことです」と組田代表は言う。
「あくまでこれは全日本F3選手権ですが、モトパークとしては、2019年までは『FIAにホモロゲートされたエンジン、車両を使った競技なので、FIAのルールが適用されるのではないのか?』という考え方なんです。ただ厳密に言うと、全日本F3選手権はJAFの管轄で行われているわけで、FIAとJAFがすべてイコールかというと、そうではない」
「なので、その点について判断を求めたいという意味で抗議を出しました。『これは日本では許されるのか?』という彼ら(=モトパーク)の疑念に対して、抗議というかたちでチェックをしてもらったということです」
この“チェック”の結果、JAFはカローラ中京 Kuo TEAM TOM’Sが使用していたパーツが違反であるという結論を出した。ただこの件について、組田代表にはある思いがあったという。
「今の時点(第10戦後に取材)で言うと、ヨーロッパの人たちが細かくライバルチームのクルマを観察し、そしてレギュレーションの内容をよく理解していたことが受け入れられたということですが、その点で言うと、僕たちは車両規定の部分でライバルに対して抗議を出したことはないので、僕たちも“甘かったのかな”と言わざるを得ないです。逆に抗議を出した相手も、同じ日本のチームなので、甘かったのではないかなという認識です」と組田代表。
「僕はB-Max Racing Teamを運営していますが、例えば仮に、モトパークが競争相手だとしたら、僕たちが抗議されて同じ目(=失格)に遭っている。チームとしては彼らと一緒に組んでやっているとはいえ、日本のレースなので、日本のレースをやっている人たちがそれを理解できていないというのは、僕たちにとっても恥ずかしいと言いますか、勉強不足だなと大いに反省しているところです」
今回モトパーク側が指摘したホモロゲーションシートについては、組田代表も「知らなかった」という。昨年までマカオにはB-Max Racing Teamもトムスも、他の日本チームも参戦していたが、もし仮に日本チームのドライバーが表彰台を獲得したとしても、再車検で失格になっていたはずと組田代表は指摘した。実際、マカオでは走行前にホモロゲーションに合わせるべく、日本チームが走行直前に作業を行っていたシーンはこれまでにも何度もあった。

■「世界のレースの基準と肩を並べるため」に
「今回技術規則で抗議を出しましたが、相手を嫌いとか、憎んでいるのではなくて、公平性を保つために『これはどうなんですか?』ということを、主催者なり、その分野に長けた人に裁いてもらいたかった。僕はこの件で改めて、日本人という単一民族がひとつの国の中で、いつも同じメンバーで、ある意味友だちのような感じでレースをしてきたのだと感じています。でもヨーロッパは大陸で、さまざまな国のチームが戦っている。文化の違いがあります」と組田代表は続けた。
「それと、他のチームに当てはまるかどうかは分かりませんが、やはりレースをやる上でそもそも多額のお金がかかる。そこに来る若手ドライバーは、いわば人生をかけていて、レース結果は人生を左右する。そういう人生を預かっている立場としては、ルールの理解が浅いとか、それに対して“抗議”という手段をもって相手と戦って、自分のチームのドライバーを守るとか、そういうことができなければ、ドライバーはそのチームを選ばないですよね」
ヨーロッパのモータースポーツ界では、こういった“抗議”という手段で自チームのドライバーを守る手段は、ある意味一般的だと多くの関係者が指摘するが、2戦連続での抗議というこのケースについては、カローラ中京 Kuo TEAM TOM’Sの山田淳監督は「我々はマカオで、ヨーロッパの他のチームと戦ってきました。モトパークは新しいチームなのであまり交流はありませんでしたが、他のチームは、お互いに車両に問題があれば事前に指摘して、『直さなければ抗議するよ』と、相手をリスペクトしたワンクッションがあったんです。ただ彼ら(モトパーク)がそういうことを知らないのかは分かりません」という。
もちろんB-Max Racing Teamの組田代表も「同じチーム同士の話で2戦連続というのは前代未聞だと思いますし、個人的に言わせてもらうと辛いです」と抗議という形を、しかも二度連続でとったことに対して個人としての心情を述べた。
「他チームさんが、これを快しとするかどうかはまた別な問題ですよね。なんとなく個人的に『すごく嫌われているな』とか『うざったいヤツが来たな』と言われていると思うんです。でも一歩引いて考えれば、それによって世界のレースの基準と肩を並べ、『日本のレースもきちんとやっているね』とヨーロッパの人たちも感じてくれると思うんです」
「同じ国の仲間で、一緒にレースを戦ってきた意識もありますし、足の引っ張り合いがレースだ……というのは僕自身の意識としてもなかなか受け入れられないです。でも、それではいけないと切り替えていかなければならない。モトパークと組むからではなくて、彼らが仮に去った後でも、B-MAX Racing Teamとしてはそういう知見をもって、テクニカルもスポーティングもしっかりと理解してレースに臨むチームにしなければならないと思っています」
第11戦が行われた7月13日夜、カローラ中京 Kuo TEAM TOM’Sは深夜0時近くまでかかって車両のチェックを行った。そして、組田代表からの「すべて見直せ」という指示でB-Max Racing Team with motoparkの4台のマシンも、全車再度きちんと適合した車両であるかがチェックされ、スタッフは深夜まで作業を行った。その結果、7月14日(日)の第12戦は、特に抗議もなくレースの正式結果が出ることになった。