ただ、自宅ではレースの話をすることは「全然なかった」という。そんな塾長が、砂子氏を始めとする1960年代のドライバーのすごさを実感したのは、自身でプリンスR380をドライブした時だった。

「だいぶ前なんだけど、R380に乗って。ピット出る時点で、細いステアリングシャフトがねじれているのが分かるのよ(笑)。『やば、これ、なんだ?』って。しかもストレートで4速入ったぐらいで、フロントがリフトし始めるのね」

「ステアリングが軽くなって、『うわ、怖ぇ』って。怖いも何も、ダウンフォースって概念がなかった時代だからね。当時はアクセル全開で、260km/hぐらいで富士のバンクに入っていたみたい。だから、ドラテクの前に、先に頭のネジが緩んでいないとね。それこそ命がけ。だからこそ、お金がもらえたんだよ」

「まぁ、みんなが憧れる。その当時ってチャラチャラしているように見えて、常に死があったと思うんだよね。豪快にやって、遊んで、ふざけているように見えても、そういう意味では武士というか、そんなふうに感じる」

「またR380の話になるけど、ペラッペラの燃料タンクが運転席の脇にあるんだよ。なんでここにつけるの?って。本当のところは分からないけど、当時の日本の考え方は、まだゼロ戦引きずっていて、速ければいいだろう、ドライバーは頑張ればいいってところが名残としてあったんだと思う。でも、60年代は多くのドライバーが亡くなって、それで安全性にどんどんシフトしていったんじゃないかな」

 やがて塾長もレースデビューを果たすわけだが、きっかけは砂子氏の存在があったからだが、レースに対するサポートは一切なかったという。

「きっかけは、親父だったよね。家にオートスポーツとかあったから、子供の時からクルマやレースはかっこいいなというのを自然と植えつけられている。もうひとつは親父ができるんだから、俺もできる的なノリもあった。何の根拠もないけどね」

「親父にやらされたとかいうのはぜんぜんなくて、一銭たりとも出してくれなかった。口聞いてやるとか、そういうのも一切ない。俺がフォーミュラやっている時に、借金を頼んだら、『何言ってんの?』って言われたよ。『レースって、お金をもらってやるもんだからね、どうしてお前が払うの? 金もらえねぇなら辞めちまえ!』って一掃されたほど」

「自分はそういう経験しかしていないし、それぐらいの才能しかないなら辞めとけというのもあるんだろうけど。その時はお袋に借りたんだけどね。でも、いちばん最初の二十歳の頃、あっちこっちオーディションのところに『ぜひ乗せてください』ってラブレターを書いていてんだよ。ろくすっぽ乗ったことがない奴がね」

「よくそんな図々しい手紙を出すなという話だけど、ひとつのところが『砂子』ってところに食いついてくれてね。『え、だれ、こいつ砂子って』、で、『ひょっとして?』で、オーディション受けさせてくれた。それが最初のきっかけ。だからそれは『砂子』って名前に大感謝だよ」

「だけど、何にも手助けはしてくれなかった。そこは教育上はっきりしていた感じで、徹底していたよね。おかげで、この業界においては砂子義一の息子っていう部分から離れて、ひとりのドライバーとして見てもらえた」と語る砂子塾長。

 インタビュー中には、かなりきわどい話もあった。

「みんなで、ニスモフェスティバルで会食するじゃない? その時に、当時のレースの話を聞きたいけど、レースの話は一切しない。オネェちゃんの話しかしない。あと、俺が生まれて……」

 もっと知りたいという方は、塾長の忙しくない時に直接聞いてみるといい。きっと爆笑の連続のはずだ。

 そのニスモフェスティバルには昨年、出席しなかった砂子氏。その日はツーリングに行く予定があったそうで、当初より欠席のはずだった。

「でも、暮れの23日に入院しちゃってね。その時から、ああそろそろやばいかなって感じた。それでも、あと半年ぐらいかなと思ったら、その10日後だよ。亡くなったのは……。87歳だし、大往生だよね。レーサーとして本当に速く駆け抜けていっちゃった。それも親父の美学だったのかもしれないね」と父・砂子義一氏を振り返った。

 日本のモータースポーツ黎明期支え、多大なる貢献をした故人に、心から哀悼の意を表します。

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