更新日: 2021.03.22 13:37
スーパー耐久:ST-2クラスを変える!? GRヤリスのパフォーマンスは軽さと安定感にあり
そんなGRヤリスだが、スーパー耐久仕様にするにあたり、エンジンは市販車のままだが、ミッションの強化、ロールケージ装着、軽量化、スーパー耐久用のピレリのスリック装着など、レースに向けた装備を施しているものの、かなり量産車に近い状態で、2リッターターボのスバルWRX STIやミツビシ・ランサーエボリューションXを相手に快速を披露した。そのポイントはやはり軽さだ。
「ライバルと比べたときには、軽いのでコーナリングが圧倒的に速いです。ライバルは2リッターで排気量に余裕があるので、あちらの方がストレートが15km/hほど速い。でもラップタイムが同様と考えると、それだけコーナーが速いということなんです」と石浦は言う。
また、レーシングカーとしてのGRヤリスの開発にも携わった井口卓人は、2019年までWRX STIをドライブしていた経験をもつ。「市販車の延長線上にあるイメージ」とGRヤリスを評しつつ、「車重とホイールベースが短いですが、乗っていて腰高な感じは全然しないんです。小さいコーナーも小回りが利きます」とGRヤリスについて語る。
「昨年までWRXに乗っていましたが、ホイールベースも長く多少車重も重いクルマで、コーナーに対してはどちらかというと、四駆特有のアンダーステアが強いイメージがありました。しかしGRヤリスは、旋回についてはすごくいいフィーリングを得ていて、セッティングやコンディションによってはアンダーステアも出ますが、コーナリング性能が上がっている印象がすごくありますね。そこは稼げている部分はあるのではないでしょうか」
市販車の開発と並行して進められたGRヤリスのスーパー耐久仕様は、さまざまなコースでテストを重ねてきたが、“1号機”ではリヤの安定感を欠くシーンがあったものの、今回使用された“2号機”ではセッティングに加えリヤウイングを装着することで、「リヤのドッシリ感を出してから、曲がる方向を出そうとやっています(井口)」という。ちなみに石浦によれば、リヤウイングは「ここで開発したものが今後パーツとして市販のラインアップにも入っていくようなもの」だとか。
さらに、このリヤの安定感の増加が、「ジェントルマンドライバー代表として」ドライブしたモリゾウの好走にも繋がった。
「モリゾウさんも乗りやすそうで、タイムの面でも近いところでやっています。2秒落ちくらいの感じで安定して走れるようになっていますし、聞くとモリゾウさんのスタイルにも合っているし、リヤのドッシリ感があるので、安心して走れるようになっていると思います」と井口は解説する。
また石浦も「アクセルオンのジェントルマンドライバーに対するイージーさがある。速く踏みすぎても何も起きない。イン巻きとかしないです。ジェントルマンにとっては、うまく向きさえ変えれば、スピンのリスクがないんです。だからすごく乗りやすいと思います」と説明した。
軽さと、どんなドライバーでも安心して走れる安定感を武器に富士24時間を制したGRヤリス。「ストレートの長い富士でST-2のライバルに対し、予選ではいろいろセーブしている感じはありますが、富士でいいところに来たので、小回りが利く岡山など、こちらに有利な部分があるんじゃないかと思っています」と井口はその強みを語る。
ROOKIE RACINGはプライベーターという立ち位置だが、今回もモリゾウから市販車へフィードバックするために、あえて「壊せ」という指示が飛んでいおり、これに対応してトヨタの技術者たちもサーキットに控えていた。しかし結果的には壊れることなく、GRヤリスの発売日から3日後にいきなりクラス優勝。ポテンシャルの高さをみせつけたかたちだ。
そんなGRヤリスの市販車の高い性能、そしてレーシングカーとしての実力の高さは賞賛するしかないが、今後トヨタがレーシングカーとしてのGRヤリスを、サーキットでどう活用するかも気になるところだ。レース仕様を販売するのか、他チームの車両の登場を待つのか……? GRヤリスの圧倒的なパフォーマンスは、これまでスバルとミツビシの2リッターターボ車を中心に、プライベーターがしのぎを削ってきたST-2クラスの“ゲームチェンジャー”となる可能性もあるだろう。