スーパー耐久マシンフォーカス:ドライビングスキルを要求するGT4マシン。KTMクロスボウGT4
スーパーGTでは紫電MC/RT-16、マクラーレンMP4-12C GT3などのエンジニアリングを担当してきた渡邊氏は、クロスボウGT4が初めてのFIA-GT4マシンだったが、GT4というカテゴリーに関しての印象は明るい。
「GT3が“買えるレーシングカー”として始まりましたが、現在では速くなりすぎてアマチュアの手に負えなくなりつつあります。それで生まれたのがGT4ですよね」
「GT3と同じく“買えるレーシングカー”なので、基本的にはガソリンを入れれば走れる状態で売られています。2000万円を超えるスポーツカーが多数あるなか、それらよりも安く、サーキットを走るための安全装備もFIAの基準のものが付いています」
「高級スポーツカーを買ってそのままサーキットを走るより、GT4マシンを買って走る方がレーシングライクで走れますし、安全装備もあって、そう簡単には壊れない。そういう点でものすごくいいカテゴリーだと思います」
KTMカーズジャパンと渡邊氏はクロスボウGT4でのレース活動2年目を迎えている。1シーズン戦った上でのクロスボウGT4という車両の特徴を聞いた。
「車両の幅に対して全長がとても短く四角いです。乗りやすいクルマはトレッドに対してホイールベースの割合というのが大体決まっていて、タイヤサイズとかも『大体このあたりだったら乗りやすいな』というのが、車両を設計する側にはあります」
「メルセデスAMG GT4あたりの前後のトレッド比はかなり乗りやすいと思います。逆に、これが四角くなればなるほど、動きはトリッキーになります」
「四角いと動きはすごくシャープになりますが、ブレーキを踏んだ際の安定性が足りません。さらに、エンジンがリヤにあり、ほかを全部カーボンで作っているのでリヤヘビーになります」
「そのため、フロントの荷重が足らないので、フロントタイヤが全然温まらず、挙動がトリッキーになりスキルを要求されるタイプの車両となっています」
「高橋一穂オーナーはチャレンジングなクルマを好むのですが、ストレートが遅い、コーナーが速いというのはスーパーGTのマザーシャシーと全く同じですね」
トリッキーな挙動からスキルが要求され、アマチュア向きのGT4というカテゴリーにおいて特異な性質を持つクロスボウGT4だが、ドライバーの行うクルマの荷重変化に対して、素直に動くという利点がある。
これまで2度、富士24時間で搭乗した小林崇志は、2019年に搭乗した際に「めちゃくちゃ面白いクルマです」と評したと渡邊氏は語る。
「速く走ろうとすると、オーバーを出さずに、ギリギリアンダーを出しながら、リヤを滑らせながら走るというドライビングが要求されます。だから小林は『練習するために欲しい』って言っていましたね。ドライビングのスキルを上げるという目的においてはものすごくいいクルマだと思います」
「ドライバーが荷重をコントロールする、それによってタイヤの接地圧を考えながらドライブするということがクロスボウはできます。限界が高すぎるとやはりアマチュアドライバーには扱えなくなりますが、クロスボウGT4はそれがバランスよくできるので、小林はすごくいいと話していました」
「ただ、その1年後にEVOモデルに乗ったら『これはいらない』って言っていたので、やはりEVOモデルはだめなんだなと思いました(笑)」
レギュラードライバーを務める加藤寛規も、2016年仕様に対し「やはり、乗りやすくていい」と評したという。
シビアな挙動はありつつも、プロフェッショナルドライバーにとって、2016年仕様のクロスボウGT4はバランスが取れたいいクルマなのだ。
クロスボウGT4の魅力はドライビングスキルの向上に最適という点だけではない。車両価格が約2000万円でありながら、ボディ全体に高価なカーボンパーツが豊富に使用されている点も忘れてはならない。価格に対する“お得感”はGT4のなかでも唯一無二のものだろう。