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投稿日: 2024.07.14 11:55

現代F1の魅力と感動が詰まった1戦。アドバンテージを失ったレッドブルとノリスの課題【中野信治のF1分析/第12戦】


F1 | 現代F1の魅力と感動が詰まった1戦。アドバンテージを失ったレッドブルとノリスの課題【中野信治のF1分析/第12戦】

 さて、決勝の2位争いは終盤にハードタイヤを履いたフェルスタッペンとソフトタイヤを履いたランド・ノリス(マクラーレン)という、タイヤ選択の違いが明暗を分けました。ノリスはフェルスタッペンの1周後に最後のピットストップに臨みました。1周前にフェルスタッペンがハードタイヤに履き替えたことを聞かされたノリスは「ボックスしよう。今なら、ソフトだ。いや、スリックならなんでもいい」と無線で口にしています。

 担当エンジニアのウィル・ジョセフが「フェルスタッペンをカバーするならミディアム。ハミルトンならソフトだ」と伝えるなか、ノリスは「ハミルトン、ハミルトンだよ。いや、ミディアムでもいいけどね」と返答。それを聞いたジョゼフは、最終的にソフトに履き替えることを選択しました。

 この無線のやり取りにはふたつの解釈ができます。ひとつ目は、クルマの状況がすごく良かったため、どのタイヤを履いても行ける自信がノリスにあった。ふたつ目は、ミディアムとソフト、どちらのタイヤに変えることが最良かをノリスが判断できず、チームに判断を促したというノリスの自信の無さの現れという解釈です。

 実際は自信があったのか、なかったのか、真意は本人しかわかりません。ただ、私はこれがノリスの敗因のひとつだと考えています。本気でチャンピオンシップを獲りに行こうとするのであれば、判断が難しい状況でも、あのような問いが来た際にはチームに委ねるのではなく、自ら決断を下せるようにならないとダメだと思います。

2024年F1第12戦イギリスGP ランド・ノリス(マクラーレン)
2024年F1第12戦イギリスGP ランド・ノリス(マクラーレン)

 本来であれば、チームが「このタイヤで行くぞ」と定めてから提案するのがベストですし、実際にチームメイトのオスカー・ピアストリに対しては「ライバル(カルロス・サインツ/フェラーリ)にはミディアムは残ってない。残り15周はミディアムが最適だ」と伝え、ピアストリが「Yes Yes(それで行く)」と言うしかないような提案方法でコミュニケーションを取っています。

 一方、ノリスに対しては「フェルスタッペンをカバーならミディアム。ハミルトンならソフト」というふうに選択肢を提示するだけの伝え方でした。これはノリスの無線での口調が激しいということもあり、チーム側も判断をノリスに委ねてしまう状況になっていた部分もあったと思います。

 レース中のコミュニケーションにおけるノリスの悪い癖がチームからのコミュケーションにも影響を与えてしまい、曖昧な決断プロセスに繋がっているのではないかという印象を抱きましたね。ノリスとマクラーレンの信頼関係は、フェルスタッペンとレッドブルの関係値と比べるとまだ薄いと感じます。

 マシンが速いこのタイミングだからこそ、ノリス、そしてチーム側もお互いが歩み寄る必要があり、信頼関係を強化していかなければチャンピオンシップを獲りに行くことは難しいでしょう。決断の時に迷わず堂々と、しっかりと決断を下せるようになることがノリス、そしてマクラーレンに求められる課題のひとつかもしれません。

2024年F1第12戦イギリスGP 終盤2番手に浮上したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)と3番手ランド・ノリス(マクラーレン)
2024年F1第12戦イギリスGP 終盤2番手に浮上したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)と3番手ランド・ノリス(マクラーレン)

 また、イギリスGP決勝ではスタート直後のフェルスタッペンとのポジション争いの動きも気になりました。3番グリッドスタートのノリスは、彼なりにメルセデス2台を攻略しようという動きをしていたように思うのですけど、その動きは4番グリッドスタートのフェルスタッペンに隙を与えるものでした。

 あれは、私にはフェルスタッペンとの真っ向勝負を避けた動きにも見えました。当然、3番グリッドスタートから先行する2台を追う動きとしては決して間違いではありません。ただ、前戦のオーストリアGPを経てのイギリスGPですので、フェルスタッペンに隙を与えてしまうと易々と順位を落とすことは、想像できたと思います。

 前回のコラムでもお伝えした“優しさ”という言葉が正解かどうかはわからないのですけど、やはりこういった部分はここ一番という大事な場面で出てしまいますし、今回のイギリスGPでも実際にポジションを失っています。

 ノリスの持つ“優しさ”。この感情は、ジョージ・ラッセルも、ハミルトンも、そしてフェルスタッペンもコース上では絶対に出さない部分です。今後さらにチャンピオンを争いに行くとなると、ノリスが持ち続けるこの“優しさ”は今後も彼の足かせとなってしまいそうだ、というのが私の印象です。

2024年F1第12戦イギリスGP ランド・ノリス(マクラーレン)
2024年F1第12戦イギリスGP ランド・ノリス(マクラーレン)

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