Shinji Nakano まとめ:autosport web

 イギリスGPは、2021年以降長く苦戦が続いたハミルトンの久しぶりの優勝により、感動的なレースともなりました。私はDAZNのF1中継で解説を務めていましたが思わず感情移入してしまい、涙声にならないように抑えていました(笑)。

 ハミルトンといえば7度の世界王者です。しかし、そんなハミルトンが2年半も勝てない期間が続き、勝てなくなった王者に対し厳しい言葉を口にする人も少なくはなかったように思います。

 そんな苦しい状況が続くなかでも、ハミルトンは自分自身を鼓舞しながら、マシンが遅い時にはタイヤの使い方で補おうと、誰よりもタイヤの使い方を研究しながら走っていたように見えていました。ハミルトンとメルセデスが勝てない時間にどう過ごしてきたかが、今回の結果に現れたのだと思います。

 また、かつてのハミルトンは気が強く、言葉も攻撃的な人物という印象でしたが、ここ数年はチームに対するネガティブな言葉を、おそらくは胸に抱きながらも口にすることなく、感情を抑えながらインタビューなどに答えています。その様子を目にすると、見ている方が辛くなるほどでした。

2024年F1第12戦イギリスGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2024年F1第12戦イギリスGP 945日ぶりの勝利を飾ったルイス・ハミルトン(メルセデス)

 そんな辛い時間を経て、メルセデスで挑む最後の母国GPでの勝利は、神様からハミルトンへのプレゼントなのかもしれない、とも感じました。終盤もソフトタイヤの使い方が本当に巧みで、優勝の要因は決してマシンの速さだけではありませんでした。

 現在39歳のハミルトンは、反射神経などの部分で10代や20代前半のドライバーたちと比較すれば当然落ちてきている部分はあると思います。ただ、肉体的に落ちた部分を何で補えるかを、しっかりと研究していたのだなということも感じさせる、そんなレースを見せてもらいました。
 
 上位チームの三つ巴の戦いに、王者の久々の優勝と、イギリスGPはまさに現在のF1の難しさ、面白さ、そして感動が詰まった一戦となりましたし、世界中のF1ファンのみなさんもそう感じてくださったのではないかと思います。

 2022年のレギュレーションの大幅変更から熟成を経て、これだけの接戦がトップ争い、中盤争いも含めて繰り広げられています。ここまでの面白さを取り戻したことに、改めてF1の凄さを感じるとともに、F1の持つ力というものを再認識した一戦でした。

2024年F1第12戦イギリスGP ウイニングランでファンに手を振るルイス・ハミルトン(メルセデス)
2024年F1第12戦イギリスGP ウイニングランでファンに手を振るルイス・ハミルトン(メルセデス)

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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