F1 ニュース

投稿日: 2024.08.03 21:05

ラッセルの1ストップ成功の3つの要因。高速区間で厳しいフェラーリとノリスのメンタルの波【中野信治のF1分析/第14戦】


F1 | ラッセルの1ストップ成功の3つの要因。高速区間で厳しいフェラーリとノリスのメンタルの波【中野信治のF1分析/第14戦】

 雨の予選で最速タイムを記録したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が5基目のICE(内燃機関エンジン)を投入したため10グリッド降格となり、2番手タイムを記録したシャルル・ルクレール(フェラーリ)がポールポジションからのスタートとなりました。ただ、フェラーリのレースペースはメルセデス、マクラーレンには届くことはなく、ルクレールは4位チェッカー、繰り上がりで3位という結果に終わりました。

 フェラーリは高速コーナーで苦しみ続けています。高速コーナーが厳しいとダウンフォースを多めにしなければならず、そうなると今度はストレートスピードが犠牲になります。昨年までのフェラーリのマシンは低速コーナーでの回頭性の良さ、ストレートスピードの速さという部分でアドバンテージを持っていました。ただ、今年のクルマはバウンシングに悩まされてダウンフォースを多めにしなければなりません。

 さらに、低速コーナーでの回頭性の良さというアドバンテージも、ライバル勢が速くなったことで以前のようなアドバンテージは無くなったように見えます。ウエット路面の予選でのルクレールの2番手タイムは、ダウンフォースを多めにしたことが活きた結果だと見えました。ただ、ドライコンディションとなった決勝では、ダウンフォースを多めにしたことが足かせに戻ったというかたちです。

 現在のままでは、今後も高速コースでは苦しい戦いとなるかもしれません。サマーブレイク明けに問題を解決できるかがフェラーリにとっての大きな課題となるとは思います。ただ、フェラーリがシーズン後半に急に速くなる、強くなるという印象はあまりないので、少し心配ではあります。

オスカー・ピアストリ(マクラーレン)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)
2024年F1第14戦ベルギーGP オスカー・ピアストリ(マクラーレン)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)

 そして、5番リッドスタートのピアストリが2位となった一方で、4番グリッドスタートのノリスはスタートで運がなく、決勝は1ポジションダウンの5位に終わりました。今回はスタートの蹴り出しは悪くはなかったとは思いますが、その後の位置取りが悪く、7番手に後退しました。

 スパ・フランコルシャンはスターティンググリッドからターン1までの距離が短く、あまり自分の意思で位置関係を変えることはできません。そんななかでノリスはターン1出口で縁石の外側にはみ出て、失速してしまいました。ノリスはこれを「愚かなミス」とコメントしていましたが、ミスというよりは流れが悪かったなという印象です。

 乗れている際、ゾーンに入った際にはとてつもないスピードを見せるノリスですが、無線でのコミュニケーションでも感じさせるように、少しメンタルの部分で波があります。ここはメンタル面で波がなく安定した強さを見せ続けるピアストリとの決定的な違いだと私は感じています。ノリスは自分自身に対し厳しく、自分に対してイライラを感じているように見えますね。チームメイトのピアストリが確実に結果を出してきていることが要因だと私は考えています。

 ハンガリーGPでの一件も、ノリスにとってプレッシャーとなり、そのプレッシャーがノリスのベルギーGPでの流れの悪さに影響を与えているのかもしれないとは感じました。速さは十分に証明しているノリスですので、今後に向けてメンタルの波を抑制する力も身につけなければ、経験値を積んだピアストリとの戦いは困難なものになるかもしれません。メンタルの波を抑制できるようにチームが手助けをするのか、それとも自力で変化を遂げるのか。ノリスの速さ以外の部分での成長には、引き続き注目です。

ランド・ノリス(マクラーレン)
2024年F1第14戦ベルギーGP ランド・ノリス(マクラーレン)

■2024年F1前半戦総括

 全24戦が行われる2024年のF1も10戦が終わりました。サマーブレイク前の前半戦はマクラーレンの台頭に始まり、メルセデスの復調と、マシンアップデートがこれまでにないほど勢力図を大きく変えました。開幕直後はレッドブルとフェラーリがタイトルを争うのかと思いきや、マクラーレン、メルセデスが猛追している状況で、見ている側にとってはたまらなく面白い展開となっています。

 レッドブルはマシンのプラットフォーム、シーズン中のアップデートともにうまくいっておらず、その影響で近年は大人びた走りを見せていたフェルスタッペンの走りが、荒々しかった昔の走りに戻ってきたようなシーンもありました。それもまたレースを面白くさせていると感じます。

 スパのレースも、チェッカーの際には3台が1.1秒以内という接戦ぶりで、そこにレッドブルとフェラーリがいないというのも新鮮でした。前半戦は面白すぎるという言葉がピッタリでしたね。

 また、裕毅(角田裕毅/RB)は前半戦で抜群の安定感を見せてくれました。確実に成長し、その成長ぶりをアピールできていると思います。レッドブル昇格といった噂などによるプレッシャーなどもあったとは思います。ただ、そのプレッシャーを集中力に変えて、やるべき仕事をしっかりとやっていたという印象です。

 要所要所で『角田裕毅、ここにあり』という走り、成長をアピールすることができているので、サマーブレイク明けもさらにチームに対し、良いアピールができるように、この良い流れを維持してほしいなと思います。

角田裕毅(RB)
2024年F1第14戦ベルギーGP 角田裕毅(RB)

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24


関連のニュース