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投稿日: 2024.09.19 19:30

ワンチャンスを仕留めたピアストリの芯の強さ。新人がバクーで輝いた背景と育成システム【中野信治のF1分析/第17戦】


F1 | ワンチャンスを仕留めたピアストリの芯の強さ。新人がバクーで輝いた背景と育成システム【中野信治のF1分析/第17戦】

 また、ペレスが表彰台を争う良い走りを見せていたことも嬉しい驚きでした。バクー市街地はペレスが得意としているコースであると同時に、今年ペレスが苦戦している高速コーナーがないレイアウトでした。

 路面のミュー(摩擦係数)が低く、ステアリングをそれほど多く切る必要のない直角コーナーが多いコースはペレスの好みですし、レッドブルのクルマも新たなアップデートによりバランスとしては良い方向に進んでいたと思います。

 その上で、持ち込みのセットアップとクルマの詰め方の点で、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)よりもペレスの方が良い仕事ができていたのかもしれません。ピアストリ、ルクレール、そしてカルロス・サインツ(フェラーリ)も加わった終盤のトップ争いは大変見応えがありましたし、そこにペレスが戻ってきたことも嬉しくなりました。

セルジオ・ペレス(レッドブル)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)
2024年F1第17戦アゼルバイジャンGP セルジオ・ペレス(レッドブル)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)

 ただ、最後まで4台でのトップ争いを見てみたかったですね。最後の戦いに向けてペレスはタイヤをかなり温存していたように見えました。トップ4の中で最もタイヤが厳しかったのがルクレールで、そのルクレールを抑え続けていたピアストリも決してタイヤに余裕があるわけでもありませんでした。

 それだけに、タイヤの厳しいピアストリ、ルクレールと、タイヤを温存したペレス、サインツの4台による残り2周の戦いが見たかったので、そこは残念でした。ただ、次戦シンガポールGPもペレスの走りを楽しみにしたいと思います。

 マリーナベイ市街地サーキットもバクーと似た典型的なストリートサーキットで直角コーナーが多めで、どちらかといえばペレスが得意とする特性のコースです。また、レッドブルはアゼルバイジャンGPでフェルスタッペンとペレスでセットアップの方向性を変えていたとのことですが、ペレスのセットアップの成功により、シンガポールGPでは2台揃ってセットアップの方向性も揃えてくるでしょう。

 2台揃って速さを取り戻すことができれば、マクラーレン、フェラーリ、メルセデスと、また誰が勝つのか最後までわからないレースとなりそうです。

セルジオ・ペレス(レッドブル)
2024年F1第17戦アゼルバイジャンGP 決勝後のセルジオ・ペレス(レッドブル)

■新人が走りやすいコースと世界の若手育成

 さて、今回でF1デビュー2戦目となったフランコ・コラピント(ウイリアムズ)が8位に入り、F1初入賞を飾りました。また、併催のFIA F2でも今回がデビューレースというドライバーが3名いましたが、3名ともに好走を見せていることが印象的でしたね。

 前回のコラムで「モンツァは比較的新人にとっても戦いやすいサーキット」とお話ししましたが、今回のバクー市街地サーキット、そしてサウジアラビアGPのジェッダも比較的新人が走りやすいコースです。路面のミューが低く、高速コーナーが少なくコーナリングスピードがそこまで高くないためですね。

 むしろ、コラピントのようにFIA F2からF1に来ると、車重がほとんど同じにも関わらずパワーが出ることもあり『F1の方が乗りやすい』という感覚が強いでしょう。その上で体験したことのないほどの強烈なGを感じる高速コーナーもないレイアウトでは、新人に対するネガティブな要素もほとんどないと思います。

 そのため、コラピントがどれほどの才能とセンスの持ち主なのかを判断するのはまだ時期尚早だと思います。ただ、コラピントの戦いぶりや落ち着きは素晴らしく、予選でもチームメイトのアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)やニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)といった、一発のタイム出しを得意とするベテラン勢とも戦えていることは、戦いやすいコースであるというだけでは片付けられません。

 理由はひとつではないと思いますが、FIA F2、FIA F3、FIA F4といったドライバーの学習曲線における育成の仕方が成功しているのもコラピントの好走のひとつの要因かなと、私は感じています。

フランコ・コラピント(ウイリアムズ)
2024年F1第17戦アゼルバイジャンGP フランコ・コラピント(ウイリアムズ)

 今のFIA F2、FIA F3ドライバーたちは、年齢こそ若いですが成熟したドライバーが増えてきたという印象です。ミドルフォーミュラの段階からF1でも通用する成熟ぶりに至る育成システムが展開され、それがかたちになってきていると強く感じます。

 ただ、今のFIA F2、FIA F3ドライバーたちが成熟してレベルが高いと言って、昔のドライバーたちのレベルが低い、成熟していないということではありません。私も若手育成に携わらせていただいているので、今世界でどのような若手育成が行われているのかは把握しています。具体的な内容は割愛しますが、世界の育成の取り組みやプロセスを知れば知るほど「当然活躍するよね」と。むしろ「活躍しない理由がない」と私が感じるほどでした。

 そういった事例や知見もあり、若いドライバーをキャリアの早い段階から積極的に上位カテゴリーで走らせるべきと私は考えています。

 かつてF1チームは若いドライバーを起用する際に、ベテランドライバーとコンビを組ませることが主流でした。若手に経験を積ませつつ、ベテランを中心にクルマの開発を行うためでしたが、今はその必要性がなくなってきたなと。参戦2年目のピアストリをはじめとする若手ドライバーの走りを見て改めてそう感じました。

2024年FIA F2第12戦バクーのスプリントレース
2024年FIA F2第12戦バクーのスプリントレース/初参戦のガブリエレ・ミニ(プレマ・レーシング/アルピーヌ育成)が3位表彰台を獲得した

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24


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