リカルドが苦しんだマシントレンドの変化と、自信を打ち砕いたフェルスタッペンの存在【中野信治のF1分析/第18戦】
また、シンガポールGPの予選ではQ1で好タイムを刻んでいたアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)やジョージ・ラッセル(メルセデス)が、Q2やQ3でタイヤのグリップ変化に苦しむ様子も見えました。
これはタイヤ性能の一貫性が起因するものなのか、それともタイヤを機能させるウインドウが極端に狭いから生じる不満なのか。私にはまだ見えない部分は多い状況ではありますが、おそらく両方が要因となっているのではないかと考えています。
ドライバーとしてはタイヤのグリップに一貫性がないと「これはタイヤに問題があるのでは?」と言いたくなる気持ちはわかります。ただ、タイヤのキャラクターとしてベストなグリップを引き出せるウインドウが狭く、路面温度のわずかな変化なども影響しウインドウにピタッと合わせるのが非常に難しく、それゆえにグリップ変化を感じてしまうということもありそうです。
では、早くタイヤのグリップを引き出す、うまく発動させるセットアップがあるのかと気になる方もいらっしゃるかもしれませんね。そういったセットアップはあるかもしれませんが、基本的にクルマのバランスが取れていればタイヤは発動させやすくなります。
単純に言えば、ダウンフォースが少ないクルマであれば少し発動しづらいとか。サスペンションの硬さやクルマの作り方でも発動させやすい、発動させにくいという当たり外れはあるとは思います。ただ、クルマのバランスが取れていればそこまでセットアップの差で大きくタイヤの発動タイミングが変わるとはないようにも思います。
それよりも、予選の場合はアタックに入るタイミング、決勝の場合はアウトラップでコースに戻るタイミングが大切で、かつドライバーが望んだスピードでタイヤを温められたかどうかが大きなポイントだと思います。
当然、その上で気温や路面温度の変化による影響もありますが、それよりも、先に述べたマシンバランスとドライバー自身の温め方の方が発動に対する影響は大きいでしょうね。
また、シンガポールGPの決勝終了後、複数人のドライバーが熱中症のような症状に見舞われました。ナイトレースとはいえ、熱帯気候のシンガポールでの9月の開催ですから、暑さに起因するものでしょう。
マリーナベイ市街地サーキットは普段は公道のため路面がバンピーで、呼吸を整えられるようなところがありません。ホームストレートも短く、ウォールに囲まれ1ミスですべてが終わる緊張感で限界を攻めるとなると、精神面でも休める部分はなく、ドライバーにとって疲れる要素がすべて詰まっていると言えます。
その上で、今年はセーフティカー(SC)やバーチャル・セーフティカー(VSC)が出ませんでした。それだけに、レース中は一度も休める場面もなく、肉体的にも追い込まれる状況で、みんなレース後にマシンを降りることさえも辛そうに見えました。
暑さと荒れた路面、休まらないコースレイアウトに加えて、さらに言えばタイヤカスがかなりたくさん出ることもあり、タイヤカスを拾わないように走ることも意識しなければなりません。そういう部分を見てみると、マリーナベイ市街地サーキットは、神経がすり減る度合いが他のサーキットよりも大きいと言えますね。