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投稿日: 2024.09.29 11:00

リカルドが苦しんだマシントレンドの変化と、自信を打ち砕いたフェルスタッペンの存在【中野信治のF1分析/第18戦】


F1 | リカルドが苦しんだマシントレンドの変化と、自信を打ち砕いたフェルスタッペンの存在【中野信治のF1分析/第18戦】

 そんなシンガポールGP明けの9月26日に、今季残る6レースはリアム・ローソンがRBで走り、これまでレギュラードライバーを務めていたリカルドがRBを離脱することが発表されました。

 14シーズン、258戦(257スタート)を戦ってきたリカルドは、かつてキレッキレの走りが魅力的なドライバーでした。ブレーキの使い方、クルマの向きの変え方も上手い、タイヤもギリギリまで使ってマシンの限界を引き出すことができ、セットアップを作り上げていくことも得意なドライバーでした。

 また、チームのモチベーションを高めてまとめていく人間力のあるドライバーであり、F1ドライバーとして求められる能力をしっかりと持った、笑顔が魅力的な選手でした。

 レッドブル育成ドライバーとしてステップアップを重ねたリカルドが、念願のレッドブルのシートを得た年は2014年。V6パワーユニット初年度のシーズンで、メルセデスが躍進した一方、ルノーPUを搭載したレッドブルは苦しい戦いを強いられました。それでも、2014年はメルセデス勢に続くランキング3位に入るなど、しっかりと輝きを放っていました。

 ただ、年々F1マシンのトレンドが変わるなか、リカルドはドライビング面での対応に時間を要した印象です。元々持っているF1マシンを速く走らせるイメージ、クルマの感じ方が強く残り、F1の変化に乗りきれなかったという部分があったとは強く感じます。

ダニエル・リカルド(RB)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)
ダニエル・リカルド(RB)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 また、リカルドがレッドブルのエースであった最中、フェルスタッペンというドライバーが昇格してきたことも、リカルドのキャリアに影響を与えました。2016年当時最強だったメルセデスに対し、乗りこなすことが難しいと思われていたレッドブルのマシンを、フェルスタッペンはレッドブル昇格初戦に優勝まで導きました。このフェルスタッペンのスピードは、リカルドの自信をことごとく砕くものでした。

 モータースポーツはメンタルが大きく左右するスポーツです。一度メンタルが壊されてしまうと、同じ状況、同じレベルまで持ち直すことは困難です。それだけに、状況を打開しようと、ルノーやマクラーレンに移籍しても、全盛期の自分に戻れるかと言えば、そう簡単にはいきません。

 そんななかで、F1マシンのトレンドも変わり、すべてがズレてしまった。自信を失ったことに加え、リカルドの持っていた能力が時代の流れとともに、クルマの変化のトレンドに合わなくなったことが、今回の離脱に繋がったと考えています。

2021年F1第14戦イタリアGPを制したダニエル・リカルド(マクラーレン)のシューイ
2021年F1第14戦イタリアGPを制したダニエル・リカルド(マクラーレン)のシューイ

 リカルドの離脱により、次戦アメリカGPからはローソンがステアリングを握ります。若いドライバーが時間を要することなくF1に順応できることが証明されてきており、今のF1のトレンドとなってきています。

 F1関係者もベテランドライバーの良さを理解しつつも、若手の伸び代なども考えて「若手の起用を1年早めてもいいんじゃないか」と感じられるような、世代交代を加速させる流れになってきていると感じています。

 今の若手育成のやり方、F1への準備の進め方が変化し、育成のプラットフォームが確立されつつあるからこその流れですね。だからこそ、昨年の代役参戦以来再びグリッドに並ぶローソンがどのような走りを見せるかは、しっかりと注目していきたいと思います。

ダニエル・リカルド(RB)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)
ダニエル・リカルド(RB)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)
リアム・ローソンとダニエル・リカルド(RB)
2024年F1サウジアラビアGP リアム・ローソンとダニエル・リカルド(RB)

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24


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