今回のアメリカGPより、ダニエル・リカルドに代わりRBのステアリングを握ることになったローソンですが、予選Q1では3番手タイムを記録したほか、決勝でも19番手から9位に入賞するなど流れがありましたね。
スタート直後に大外刈りを決めて順位を大幅に上げることに成功し、それによりハードタイヤを労わることもできました。その上でタイヤマネジメント、ペースコントロールが抜群であり、オーバーテイクの際には絶対に引かない姿勢を見せるなど、自身の強さをアピールしていたことは素晴らしいと思います。
また、初めてのコースでありながら、スプリント予選SQ1でも裕毅より速く、予選Q1ではフェルスタッペンから0.293秒差の3番手というのは秀逸です。約1年ぶりのレースであそこまでの走りを見せただけに、やはりローソンには高いポテンシャルがあると、いろいろなF1チーム関係者が理解したと思います。
これで、私的には今まで以上に面白くなると感じています。裕毅とローソンの関係はノリスとオスカー・ピアストリ(マクラーレン)が既にそうであるように、お互いを高め合う、チームのポテンシャルや成績も高める環境を整えていると思います。
若手のローソンは『行くしかない』でしょうし、対する裕毅は『ローソンに絶対に負けられない』状況でしょう。この状況が、お互いの能力以上のものを引き出すことに繋がる、最高の環境だと私は考えています。

裕毅はアメリカGPでは流れがありませんでしたが、部分単位で見るといいバトル、いい走りを見せていました。決して、この1戦だけですべてが決まるわけではないと私は思います。いい部分をポジティブに捉えて、しっかりと次戦に気持ちを切り替えてほしいですね。
アメリカGPを終えた直後の今は『ローソンはすごいドライバーだ』というふうになっていますが、逆に言えばそこまで評価を上げたローソンを、次のレースで裕毅が負かすことができれば、『やはり角田はいいドライバーだよね』というふうになります。
人の評価、印象は一瞬で覆るものです。確かに、アメリカGPでのローソンは素晴らしかった。ただ、裕毅との戦いはまだ続いています。そんななかで裕毅にはしっかりと戦い抜いてほしいと思います。
これが本当の戦いです。裕毅にとっては、リカルドがチームメイトだったころとはまったく違うプレッシャーを抱く戦いとなります。そんなプレッシャーのなかで、どこまで冷静に戦えるかが重要です。
アメリカGP決勝で見せた単独スピンは、ネガティブなことが起きた際に裕毅が時折放つ無線のような、感情の起伏が走りに出てしまったという印象です。自らのアンガーコントロールを含め、裕毅がもう一段階成長できるか否かは、このローソンとの戦いの最中にわかると思います。もう一段階成長することは、簡単なことではありませんが、そこに至る環境は揃ったなと感じています。

最後になりましたが、10月11日にハースとTOYOTA GAZOO Racing(TGR)が車両開発や人材育成などにおいて協力関係を結ぶことに合意したという、今後の展開が楽しみな発表がありました。
おそらくビジネス的な面も含め、我々が窺い知れないさまざまな理由があっての協力関係だとは思いますが、この協力関係により日本の若いドライバーたちの夢がさらに広がったと思います。夢が広がることほど楽しみなことは、他にはありませんね。
今後のハースとTGRの展開には注目ですし、この協力関係をきっかけに、日本のモータースポーツ界にポジティブな影響をどんどんと与えてくれるようになれば嬉しいですし、そう願っています。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24