メキシコシティGPの決勝では、フェルスタッペンの2度のペナルティが目立つレースとなりました。一時はトップに浮上したフェルスタッペンでしたが、ランド・ノリス(マクラーレン)とのバトルの最中、ターン4でノリスをコース外に押し出したとして10秒、続くターン8でコース外走行でのアドバンテージを得たとして10秒、計20秒のタイムペナルティが課されることになりました。
フェルスタッペンがあのような戦いぶりを見せたのは、やはりレッドブルのレースペース不足、フェラーリとマクラーレンにマシンポテンシャルの面で歯が立たないという状況が大きく影響していますね。普通に戦おうとすると、今のレッドブルのクルマには勝ち目がありません。
だからこそ、フェルスタッペンは“使えるものはすべて使う”ことを選択したのでしょう。アメリカGPも含め、フェルスタッペンはドライビング・スタンダート・ガイドラインにある意味で従うかたちでバトルを繰り広げていたと思います。これまではガイドラインに従っていれば、少しやり過ぎな部分があっても許されるということがありました。ただ、メキシコシティGPでのフェルスタッペンは完全にやり過ぎていましたね。
前戦アメリカGPでの出来事を経て、このメキシコシティGPの金曜日に、FIA国際自動車連盟とドライバーたちの間で既存のガイドラインを改訂する方向で合意されました。今後に向けて、フェルスタッペンは戦い方を変えざるを得ないでしょう。フェルスタッペンにとっては、彼ならではの大胆なディフェンスやオーバーテイクができなくなります。
クルマが良ければリスクを伴ったオーバーテイクやブロックをする必要はありませんが、現在のレッドブルはリスクを伴わなければ戦えないマシンです。それだけに、フェルスタッペンはさらに追い込まれることになりそうです。

そして、メキシコシティGPが母国グランプリだったペレスでしたが、予選は18番手、決勝も17位と苦しい戦いが続き、自身も「これまでで最悪のグランプリ」と評する苦しいレースとなってしまいました。速さがなく、ドライビングも難しいレッドブルのマシンに加え、ペレスは自分自身の100パーセントのポテンシャルを引き出すことが難しい、かなり精神的に追い込まれた状況にいると感じます。
そんな難しい状況でマシンのポテンシャルを引き出しながらF1サーカスを戦うことは、本当に難しいと言いますか、ほぼ困難に近い状況です。追い込まれた精神状態の中で戦うということは、我々の想像を絶するところにあるでしょう。だからこそ、外野である我々が彼について、あそこがダメだとか、こうすればいいなんて言ったり、解説できることはありません。
ただ、同じレーシングドライバー、同じアスリートとしては、ペレスに少しでも自分自身が納得できる走りをしてほしい。彼の置かれている状況は、言語化できるほど簡単なものではありません。私がペレスと同じ状況だったらと考えると……おそらくもうポジティブに戦うことはできないでしょう。
今季残る4戦のなかでアゼルバイジャンGPのように、好走に繋がる何かきっかけがあればいいなと思いますし、とにかくペレス自身が納得できるレースをしてほしいと、心から願います。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24