上位陣の勢力図を崩したグレイニング。「打ち負かし続ける」という角田裕毅の言葉の意味【中野信治のF1分析/第22戦】
そんなノリスを要したコンストラクターズ首位のマクラーレンはラスベガスGPでマシンのピーキーさに悩まされ、さらには汚れた路面がそのピーキーさに拍車をかけ、流れも掴めずに苦しい戦いが続きました。対象的に好走を見せたのがメルセデスでした。
ラスベガスGPの週末は、すべてのセッションでメルセデス勢がトップにつけ、ラッセルがポール・トゥ・ウイン。さらに、予選でミスがあり10番手に沈んだハミルトンが2位に入り、メルセデスが決勝でワンツーを決める完璧なかたちで週末を終えました。
メルセデス勢は持ち込みセットアップが当たったようで、走り始めのFP1からクルマが安定し、路面が汚れていてもガンガンとブレーキで奥まで入れていました。リヤはしっかりと安定し、少しアンダーステア気味のクルマでしたが、安定感は抜群でした。
フロントに関してはステアリングの舵角は大きいものの、低温路面のなかでタイヤがしっかりとグリップしていましたね。気温、路面温度ともに低温で、スリッピーな公道サーキットという状況に、安定感のあるマシンがハマっていた印象です。
また、タイヤのデグラデーション(性能劣化)の少なさ、タイヤの保ちの良さも際立っていました。フロントタイヤはどのチームもグレイニング(コーナリングの際、タイヤがグリップを維持できず、スライドする時に発生する現象。路面に対し横向きの摩耗がトレッドパターン上に波のような粒状のささくれを生成し、グリップ低下に繋がる)に悩まされていました。
タイヤのデグラデーションが大きくなる一番の要因は、フロントタイヤのグレイニングです。そのなかでメルセデス、そしてメルセデス同様にタイヤを保たせることができていたフェラーリ勢も大なり小なりグレイニングの影響はあったとは思いますが、グレイニングの発生を比較的コントロールできるクルマ作りができていたと思います。
カスロス・サインツが3位、シャルル・ルクレールが4位に入ったフェラーリは、もともと路面のミュー(摩擦係数)が少ない公道サーキットで速さを見せていたので、事前の予想段階からフェラーリは表彰台争いには加わると思っていました。これまでの公道ラウンドと違い、路温が低温という違いはありましたが、そのなかでもタイヤのデグラデーションをうまくコントロールしていました。
それだけに、決勝序盤に2番手のルクレールが首位のラッセルに勝負を挑んでタイヤを使ってしまい、そこからポジションを下げたことはフェラーリ陣営にとっては予想外なことだったかもしれません。マシンポテンシャルはメルセデスにも近いレベルだったこともあり、もし序盤でルクレールがラッセルをオーバーテイクできていれば、戦局は大きく変わっていたでしょう。
その場合、2番手に下がったラッセルは、おそらくポジションを取り戻そうとプッシュし、タイヤのグレイニングに悩まされるという可能性あります。ラスベガスGPは、メルセデスもフェラーリもどちらが勝ってもおかしくはありませんでした。ただ、序盤の数周の展開がすべてを決しました。しっかりとルクレールを抑えトップを守ったラッセルは、メルセデスのエースとなるに相応しい、いい仕事ぶりを見せたと感じます。