更新日: 2016.07.11 16:59
今宮純の決勝インプレッション:英国人が愛する、クラークに迫ったハミルトン
「フライング・スコット」天駆けるスコットランド人と言われたジム・クラーク。1962・63・64・65年とイギリスGPで4連勝、67年を制して最多5勝。誰もが認める最速レーサーであった。
50回目の開催を迎えたシルバーストンで最大の注目点は、2014年から連勝中のルイス・ハミルトンが3連勝できるかどうか。クラークのあと、誰もできずに半世紀が過ぎた。「やっちゃえ、ルイス」──そんな個人的な思い入れがあった。
金曜の生中継を担当、5年ぶりに組む西岡アナウンサーと伝統あるサーキットの物語について打ち合わせ中に雑談を。勉強家の彼は、伝統のイベントの重みや格調の高さを、よくわかっている。ハミルトンは初日から、いつも以上にきめ細やかに過半数が高速となる18のコーナーを丁寧に攻めた。普段あちこちでロックアップするのに節度があり、ブレーキングポイントがずれない。メートル単位、コンマ秒単位でしっかりつかめていた。フリー走行1回目から昨年のポールポジションタイムを更新する完璧なリズム。
1960年代にクラークは、あらゆるコーナーを定規で測ったような、きれいな4輪ドリフトで駆け抜けた。豪快というよりも華麗で、ファンのみならずレース関係者さえ魅了された。1985年生まれのハミルトンがクラークなど知らないのは当たり前、アイルトン・セナが彼のアイドルなのだから。だが、いまのルイスはクラークに迫る存在になれるかもと思える週末だった。
今年、客席には高齢ファンの姿が目立った。ウインブルドン・テニス決勝もあるのにスタンドは超満員。勝手な想像だが、クラークやグラハム・ヒル、ジョン・サーティースら英国の全盛期を懐かしみ、それをハミルトンにだぶらせる思いがあったからではないか。1965年にはイギリス人ドライバーがトップ5を独占。4連勝クラークに、ヒル、サーティース、マイク・スペンス、ジャッキー・スチュワートが続いた。しかし今季はハミルトンだけ、バトンには期待できずパーマーは無理。ベテランたちはハミルトンひとりに思いを寄せ、賭けた。