パートナーを思いやる気持ちを持っていたのは、ホンダだけではない。トロロッソもまたホンダをリスペクトし、ホンダと仕事するうえで日本の文化を学ぶ必要があったと、チーム代表のフランツ・トストは語る。
「私はかつて日本で生活していたことがあるから、日本がヨーロッパの文化と違うことはわかっているが、ファクトリーで働いている人たちはそれを知らない。だから、彼らがホンダと仕事するうえで、誤解を招かないよう、日本の人たちがどういう風な考え方をしているかを学んでもらう必要があると思ったんだ」
トストがスタッフに理解してもらいかったのは、日本人とのコミュニケーションで起きるちょっとしたズレだ。
「例えば、日本人はイエス、ノーをはっきりと言わないところがあるから、メールで返事では『できない』と書かないようにしなければならないんだ。日本人をがっかりさせちゃうからね。反対に、日本人から『できるかもしれません』とメールが来たら、あまり期待しちゃいけない。だいたいできないということを理解しないといけないんだ」
こうしたトロロッソ側を意識してか、ホンダも相手に変な期待を持たせるような発言は極力控えているように見受ける。
期待を上回る出来で合同テストを終えても、開幕へ向けて山本モータースポーツ部長から出る言葉は慎重だ。
「この世界では、いきなり奇跡が起きるわけではない。地道にひとつずつステップを踏んでやっていくしかありません。レースという長丁場をしっかり戦うこと。そして最終戦までの21戦をどう戦っていくかも考えておかなければならない。それをキッチリとこなしていくことがいまのホンダには必要です」
本音で付き合えるパートナーと組んだことで、ホンダも背伸びをすることなく、足元を見つめ直すことができたのかもしれない。