しかし、大多数のチームとは違い、フェラーリのテクニカルディレクターの役割はそうシンプルなものではない。フェラーリのテクニカルディレクターは、ひょっとしたら他のどんな組織よりもずっと政治力が求められる。自らの部門を率い、トップレベルのマネジメントを行い、そして関連するすべての事柄の優先順位や定められた予算のやりくりをしなくてはいけない。
この役職には実現性の高い計画能力と強い支配力、それにある程度の外交能力が必要だ。しばしばフェラーリのテクニカルディレクター職はスクーデリアのエンジニアリング部門を率いることに対する、内外からの重圧に耐えきれなくなった人の脱出装置だった。
暫定的にそのような人材がいないということは、今シーズンの残りの焦点と来シーズンの計画が2014年のような紛争の対象になるということを意味している。
この喫緊の事態は、フェラーリが近い将来に再び覇権を取り戻すという望みを危険に晒すものである。当然のことながら、フェラーリ会長のセルジオ・マルキオンネは今シーズンの勝利を望んでいるため、来期のマシンの開発は今期型の開発と並行して行われることになる。
さて、いったい誰にこんな役職が務まるのか。そして誰がこの役職をしたいと思うのだろうか。
F1には数多くの才能を持った人々がいるが、フェラーリのテクニカルディレクターという重責が務まるような人間はほとんどいない。