ロリー・バーンが語る栄光のマシン。“バーン・エアロ”の集大成、『フェラーリF1-2000』
「F1-2000はチャンピオンになることを目標に作られたマシンだった」と、ロリーはフェラーリに21年ぶりにダブルタイトルをもたらしたマシンについて語り出した。
「私が97年にフェラーリへ加入した時、すでにその年のマシンはできていた。F310Bだ」
F310Bは、イギリスでジョン・バーナード率いるGTO(ギルフォード・テクニカル・オフィス)でデザインされたマシンである。
「このマシンを開発することから私の仕事は始まった。そのマシンの情報とデータさえあれば、開発はそれほど難しいことではない。しかし、F310Bに関しては、そのどちらもなかった。そこにあったのは、マシンの設計図だけだったんだ……」
この話を不思議に思うかもしれないが、F310Bの設計はすべてGTOで行なわれていたため、彼らが情報をリリースしない限り、手に入らなかったのである。
「結局、F310Bを開発するためには、まずR&D、設計部門の再建、人材の雇用など、フェラーリのインフラをイチから作っていかなければならなかった。そのため、F1-2000に辿り着くまでに、3年も費やしてしまったんだ」
こうした経緯を経て、00年にF1-2000は完成したが、命題であるタイトル奪還に向けてロリーは、次のことを重視していたという。
「チャンピオンになるためにはただ速いだけではなく、信頼性も重要だ。それには基礎からしっかりと検討しなければならない。F1-2000ではまず、大幅な軽量化を進めた。多くのバラストを搭載できるようにしたんだ」
事実、F1-2000のフロアには大量のバラストが搭載されていた。やはり低重心化、重量バランスの自由度の拡張が最大の狙いなのか。
「もちろん、それもあるけど、本当の目的は違う」とロリーは説明する。軽量化のほかに、どんな目的があるのか。
「何度も言うが、F1-2000はチャンピオンになるためのマシンだ。開発はレースごとに行ない、絶対的な信頼性を確保し続ければ、そこまでは辿り着けない。しかし、急テンポなマシン開発にトラブルは付き物、それで信頼性を失うことが多いのだ」
「そうなると即刻、信頼性の確保に取りかかるわけだが、補強する際に重量が増してしまうパターンが多い。だから、その重量増加があっても常にアンダーウエイトを維持できるように、徹底した軽量化を行なったんだ」
新規開発パーツは、軽量化の面でも限界ギリギリを攻めてくる。そこで信頼性の問題が発生した場合、壊れないように強化すると、重量が増える可能性が高い。それでもアンダーウエイトの状態を維持するためには、増えるバラストを見越して、最初から重量を削っておけばいいというわけだ。この軽量化の意味は余人には考えつかない。