更新日: 2018.12.28 18:20
【F1座談会企画(5)次期日本人F1ドライバー編】世界で苦労する日本人ドライバー。メーカーの垣根を越えたチャンスを
──2019年に日本人ドライバーがF1で戦うことは実現しませんでしたが、今後日本人がF1に行くためにはどうすべきだとお考えですか?
尾張「少し話が逸れるけれど、メーカーにこだわるなと言いたくなる。ニック・ハイドフェルドはメルセデスのジュニアドライバーだったけれど、BMWでF1に乗った。ミハエル・シューマッハーだってメルセデスの育成ドライバーだったけれど、フェラーリにいったし、またメルセデスに帰ってきた。メーカーにこだわっているのは日本人だけ。もしホンダのドライバーの中に、フェルナンド・アロンソを見て『ル・マン24時間レースに出たい』と思ったドライバーがいたとしても、いけないわけでしょう? それはおかしい。(メーカーにこだわることの)良し悪しは別だけどね」
柴田「まったくその通りだと思う。ただ一方でホンダ(モータースポーツ部)の山本(雅史)部長の立場からしたら、もちろん日本人ドライバーをF1に出したいだろうし、個人的には松下君が再来年F1に行ってくれたらいいなと心から思うけれど、でも、ここまで日本人にこだわらなくてもいいのかなと思う気持ちもある。他の自動車メーカーならば、たとえばメルセデスはそこまでドイツ人のドライバーにこだわらないでしょう? それはシューマッハーのようなドライバーがいるから、余裕があってそういう態度を取れるのかなというのもある。だけど、実力が伴わないのに何でもかんでも『日本人ドライバー』というのは間違いだと思う。山本部長も言っていたけど、F1に行けるというだけで日本人を引き上げるのは間違い」
──メーカーにこだわらず門戸を広げれば、チャンスが広がっていくこともありそうですね。
柴田「ホンダの育成システムは、採用してからは結果を残せなくてもなかなか首を切らないじゃない。ヨーロッパでダメなら日本でやればいいって。面倒見が良くて日本的でいいなと思う反面、そこに日本人ドライバーが育っていかない理由があるのかなとも思います」
尾張「育てるんじゃなくて、どんどんチャンスを与えた方が良いと思う。SRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)も体制が変わった(※1)けれど、前提として海外に行く人を応援するというシステムに変えた方が良いと思うね」
──ちなみに最終戦アブダビGPでは、2018年のスーパーフォーミュラとスーパーGTの両タイトルを獲得した山本尚貴が現地を訪れましたが、彼についてはいかがでしょうか。
尾張「日本の両カテゴリー(スーパーフォーミュラとスーパーGT)で8年ぶりにトップになったドライバーだし、旬でもある山本尚貴を次の年にF1に乗せたらどうなるのか、見てみたいよね。F1に行くなら下位カテゴリーでピレリタイヤを経験した方が良いと思うけど、そういうのを経験しないというルートを見たい」
柴田「日本で培ったスタイルで、ヨーロッパの舞台で戦うには厳しい部分があると思うけど、たしかに、日本の最高レベルのドライバーがF1に乗るという面では見てみたいよね」
──これまで5回に渡って昨今のF1事情について話をしてきましたが、いずれにしましても2019年は多くのチームでドライバーラインアップが変わり、レッドブル・ホンダが誕生するなど、話題の豊富なシーズンとなりそうですね。
尾張「8年ぶりにF1に戻ってくるロバート・クビカがどんな走りをするのか、見てみたいよね。僕が見たいのはクビカと、あと松下がF2戻ってきてどうなるのか。それからガスリーがフェルスタペンを相手にどれくらいできるのか、どうやってリカルドがルノーを立て直すのか。あとはザウバーの(キミ)ライコネン! 表彰台を獲得できないということはないと思うよ」
柴田「ザウバーは今もフェラーリから技術協力を受けているし、2019年はもっと速くなると思う」
尾張「でも、ザウバーが速くなったら、フェラーリはダメ。シモーネ・レスタ(元フェラーリのチーフデザイナー。2018年5月にフェラーリを離脱して7月よりザウバーのテクニカルディレクターに就任)が抜けているし、政治的な混乱を避けてフェラーリを抜けている人がいる可能性もある。そうするとザウバーが速いということは、フェラーリはダメかも。ザウバーのライコネンがどれだけやれるのか見てみたい」
柴田「ライコネンにしてみれば、フェラーリの(セバスチャン)ベッテルをコース上でぶち抜くというのが目標かもしれないね(笑)」
──そんなシーンが見られたら、ライコネンファンは大喜びですね。2019年のF1、ホンダの活躍……3月の開幕戦からまた、みなさんと一緒にF1を楽しみましょう。
おわり
※1. 2018年11月、元F1ドライバーの中嶋悟が25年間務めた校長から勇退。新たに創設されたプリンシパルに佐藤琢磨を、ヴァイス・プリンシパルには中野信治を起用することが発表された。
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柴田久仁夫
静岡県出身。TVディレクターとして数々のテレビ番組を手がけた後、1987年よりF1ライターに転身。現在も各国のグランプリを飛びまわり、『autosport』をはじめ様々な媒体に寄稿している。趣味はトレイルランニングとワイン。
尾張正博
宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場からは離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1を取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。