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投稿日: 2019.04.03 07:00
更新日: 2019.04.03 18:27

最新技術を備えたフェラーリ640。その設計には“天才”ゆえの古い手法も【ジョン・バーナード インタビュー中編】


F1 | 最新技術を備えたフェラーリ640。その設計には“天才”ゆえの古い手法も【ジョン・バーナード インタビュー中編】

――モノコックにボディワークを被せる方式を継続したのはなぜですか?

JB:あの当時、フェラーリにはそれに必要な技術がないと思ったからだ。1986年の終わりにマラネロを訪れた時、彼らは5軸の加工機械を持っていたが、まだ使い方が分からずに学習中だった。だから、モノコック自体を空力的な形状に成形したクルマは、現実的な選択肢にはなりえなかった。

JB:もしそれをやりたければ、ボディワークを作る時にやっていたように、まず作りたい形のオス型を製作し、それを元にメス型を作って、内側にモノコックの素材を貼り込んでいくことになる。だが、当時この方法でモノコックを作るには、上半分と下半分を別々に作ってつなぎ合わせるしかなく、大きな継ぎ目ができてしまう。私はカーボンファイバーのシャシーに関しては、完璧なアプローチを採りたいと望み、成形後の継ぎ目は最小限に抑えたかった。そして、シャシーに継ぎ目ができないように、メス型での成形を避けたんだ。

JB:ただ、正直なところを言えば、より大きな問題は、きちんとした三次元形状を作る能力の方だった。メス型の元になるオス型の外形形状を、デザインしたとおりに正確に作れない限りは、あらゆる面や取り合わせ、それに取り付けるさまざまな部品について、私自身が100%の確信を持てないクルマができてしまう。ウィッシュボーンをひとつ取り付けるのにも難儀するようなクルマでは、話にならないからね。形状を正しく加工する能力が保証されない限り、あの方法でクルマを作るのは気が進まなかった。

JB:古いやり方かもしれないが、すべてが設計図どおりの位置にあるシャシーを作りたかったんだ。マクラーレン時代にも、ドライバーが「こっちのシャシーの方がいい」とか、「あのクルマには乗りたくない」と言うようなことがあった。

JB:ひとつひとつが手作りのものは、どうしてもわずかな個体差が生じてしまう。私の望みはそういう差をなくして、すべて同じになるようにすることだった。ドライバーがシャシーをより好みせず、交換しても気づきさえしないようにしたかった。それがもうひとつの理由だ。ただ、新しい技術が次々と現れてくるなかで、私自身がメス型成形のモノコックについて、考えるのを止めてしまったところもあるかもしれない。

――開幕前のテストで、640がトラブル続きだったことはよく知られています。実際には、どんな苦労があったのでしょうか?

JB:一番の問題は、イタリアのありとあらゆる新聞が、「またギヤボックスが壊れた!」と書きたてたことだ。しかし、ギヤボックスだけが問題だったわけではない。確かに、最初に機能しなくなるのはギヤボックスだったが、しばらく経ってからオルタネーターの駆動に重大な欠点があることが分かった。それによって電源が途絶えた時、先に機能停止するのはエンジンではなくギヤボックスだったんだ。

JB:実際、ギヤボックスが作動しなくなると、その数秒後にはエンジンも止まってしまった。電気が来なくなるからだ。ギヤボックスの信頼性は100%で、すべては電気系のトラブルだったと言うつもりはない。ただ、初期トラブルの多くは、電源喪失によるものだった。

JB:ともあれ、私はプレスの矢面に立たされた。記事の多くは根拠のない憶測だったのに、私が責任者として吊るし上げられた。だが、それは別に構わなかった。気に病んだりはしなかったし、それも仕事の一部だと思っていたからね。

後編につづく
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