フェラーリ:ドライバーディフォルトD15オン、それからD15オフ。もう一度ディフォルトD15オン。モード・レースに切り替えてくれ。D15オフ。残り9周、後方のBOT(バルテリ・ボッタス)との30秒。BOTとのギャップは大丈夫だ、この順位のままでフィニッシュできる。ダッシュボード上の燃費の数値に従って走ってくれ。
ルクレール:あぁ、でもそんなの無理だよ! オーマイゴッド! あぁでもやるよ。
フェラーリ:落ち着いて、なんとかマシンをゴールまで持ち帰るんだ。
ルクレール:了解、やれるだけやってみるよ。僕は冷静だよ。
フェラーリ:了解。
もう一方で問題だったのは、燃費だ。
2019年シーズンから110kgの燃料が使用可能になったとはいえ、バーレーンは昨年どのマシンもほぼフルに105kgを使っていたほど燃費に厳しいサーキット。前半にギャップを作るためプッシュし最後にリフトオフして燃費の帳尻を合わせるはずだったルクレールは、ここで燃費が厳しくなってしまった。エンジンパワーの低下によってただでさえペースが落ちているところに、さらにリフトオフをしなければならなかったのだ。
目の前にあったはずの初優勝を失った上に、あまりにも無慈悲な指示に心を乱しかけたルクレールだったが、すぐに冷静さを取り戻し、自分が置かれた状況の中で最大限の結果である3位を確保することを最優先に考えて行動を始めた。これがルクレールの強さだ。

ルクレール:あと何周?
フェラーリ:あと8周だ。
フェラーリ:ターゲットラップタイムは38.0(1分38秒0)。
ルクレール:無理だよ! 絶対に無理! ストレートが全く伸びなくてそこでタイムを失っているんだから、そのペースで燃費をセーブするなんて無理だよ。
フェラーリ:了解、SOC7。今のまま走り続けてくれ。このままいけば3位でフィニッシュできる。ドライバーディフォルトB57。
ルクレール:燃料は大丈夫なのか?
フェラーリ:現状では大丈夫じゃない、今のままではOKではない。
ルクレール:どうしたら良い?
フェラーリ:ストレートエンドで大きくリフトオフしてくれ。
ルクレール:4位とのギャップは?
フェラーリ:4位とは38秒差だ。
ルクレール:今のペースで行くと何秒差になる?
フェラーリ:11秒差だ。しかし燃費のことを考えなければならない。オイルボタンを押してくれ。ダッシュボード上の数値を確認しながら走ってくれ。
その一方でレッドブル・ホンダ陣営も3位奪取を狙っていた。4番手を走るマックス・フェルスタッペンはリヤタイヤのグリップ低下に苦しんでいたが、ルクレールの状況が逐一伝えられていた。